増加する高齢者の単独世帯
高齢化が進展する日本では、日々多くの人が旅立ち、また、それに伴って相続も発生している。
令和3年現在、65歳以上の人のいる世帯は2580万9000世帯と、全世帯5191万4000世帯の49.7%、つまり半分を占めている。そしてさらに、65歳以上の人のいる世帯のうち、最も多いのは単独世帯である。
◆65歳以上の者のいる世帯数及び構成割合(世帯構造別)
単独世帯:742万7000世帯(28.8%)
夫婦のみの世帯:825万1000世帯(32%)
親と未婚の子のみの世帯:528万4000世帯(20.5%)
三世代世帯:240万1000世帯(9.3%)
その他の世帯:244万6000世帯(9.5%)
※()内は65歳以上の者のいる世帯総数に占める割合(%)
※出典:内閣府 高齢社会白書(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_1_3.html)
親と離れて暮らす子どもの場合、親の健康状態や資産状況を正確に把握していないことが少なくない
田中二郎さん(仮)は、仕事中に父親の急死の連絡を聞き、急ぎ、入院先の病院へと向かった。
そこにはすでに、田中さんの兄の一郎さんと兄嫁が到着していた。
「まさか、こんなに状態が悪かっただなんて…」
二郎さんは、父親から持病のことを聞いていたものの、まさか生死にかかわるほど悪化しているとは思らず、ショックを受けた。
しかし、父親の主治医は落ち込む男性を「残念ですが、高齢者の場合、急変はよくあることなのですよ」といって、二郎さんを慰めた。
「お義姉さんにも、翔太君にも、相続権はありませんよ?」
その後、葬儀、四十九日が滞りなく終了し、親族の食事会の席では、自然と遺産相続の話になった。
「母さんが亡くなってからも、ずっと父さんが暮らしていたあの家、どうしたらいいかな?」
そう話を向けたの田中さんの兄の一郎さんだった。
「うちは賃貸だから、正直、実家を相続できるとありがたいんだが…」
田中さんは兄と違い独身だが、すでに単身者用の自宅マンションを購入している。
「兄さんが欲しいなら、いいよ」
「えっ、そうか!?」
男性はうなずいた。
「でも、遺産は半分に分けてほしいけれど…」
田中さんの言葉を聞き、兄は黙ってしまった。なぜなら、田中さんの父親の財産は、自宅不動産以外は、数百万円の現金しかなく、田中さんと兄が平等に分けるのはむずかしかったからだ。
「親父は、たまたま親から土地をもらえて、世田谷に家を建てられたけれど、貯金はわずかだったよ。でも、年金はあまり多くないものの、生活は一応回っていたみたいだね」
内閣府の「高齢社会白書」※によると、「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」人の割合は、全体で56.5%となっている。
※ https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_2_1.html
すると、兄嫁が突然話に割って入ってきた。
「二郎さんは独身だけれど、主人は長男だし、うちには田中家の跡継ぎの翔太もいます。遺産半分こなんて、ちょっと図々しんじゃないかしら?」
「えっ、どうしてですか?」
「はぁ? うちは3人、あなたは1人じゃない!」
馬鹿にしたように二郎さんを見下ろす兄嫁に、二郎さんはいった。
「なにいっているんですか。お義姉さんにも、翔太君にも、相続権はありませんよ?」
二郎さんがいう通り、亡くなった一郎さんと二郎さんの父親の法定相続人は2人の息子だけである。
法定相続人とは、民法で相続人となることができると定められた相続人をいう。
法定相続人には、配偶者と血族の2種類があり、配偶者は、常に相続人だ。そして、血族には順位があり、先順位の者が相続人となる。
第1順位:被相続人の子
第2順位:直系尊属(被相続人の親等)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹
このことからもわかるように、一郎さんの妻も子どもも、相続人ではない。
相続の現場では、相続権があるのに主張できず、ほかの相続人からいいようにあしらわれてしまったり、また逆に、相続権がないのに相続人の間に割って入り、話し合いを拗らせるといった困った人が登場することがる。
相続権の有無については、事前にしっかり認識をしておくことが重要だ。
[参考資料]
税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
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