株式の「短期投資」は、株価の変化に賭ける「バクチ」だが…
特殊な能力のある人はともかく、普通の人にとって、株価の短期的な動きを予測することは極めて困難です。値上がりを予想して買い注文を出しているプロと、値下がりを予想して売り注文を出しているプロが激突して成立しているのが、いまの株価なのですから。
したがって、株式の短期投資はカジノのルーレットと同じように「バクチ」です。もっとも、ルーレットよりは期待値が高い(儲かる確率が高い)ので、バクチが好きな人が楽しむにはいいと思います。ただし、老後資金をカジノに持っていく人がいないのと同様に、小遣いの範囲内で遊ぶならば…ですが(拙稿『「ダメだ、博打がやめられない!」→ギャンブラー体質の人へ、経済評論家が「株式の短期投資」をお勧めするマジメな理由』参照)。
株式の長期投資は「100万分の1オーナー社長」になること
株式の長期投資は、短期投資と異なり、企業の生み出す価値の分け前にあずかろうという行為です。企業は株主と銀行から資金を集め、労働者を雇い、材料を仕入れて製品を作って売ります。売値と仕入れ値の差額は付加価値と呼ばれ、労働者への賃金、銀行への金利支払い、株主への配当支払いに使われます。残りは内部留保となりますが、これも株主のものであり、株価を押し上げる力として働きます。
これは、オーナー社長と同じ立場です。違いは、持っている株数だけです(笑)。零細株主は企業の経営に口出しすることはできませんが、立派な経営がなされている企業を選んで投資することはできるので、実害はないでしょう。
もうひとつ、オーナー社長は、企業が上場されていない限り、株価の変動の影響を受けません。一方で、上場企業の零細株主には株価暴落のリスクがありますが、これも気にする必要はありません。株価は「適正株価」の周囲で上がったり下がったりするだけですから、長期で持っていれば適正株価に戻り、それを上回るタイミングも必ずあるからです。
つまり、将来も利益を稼ぎ続けるであろう企業の株を持っておけば、利益が配当されて所得が増えるか内部留保されて適正株価が上がるか、いずれにしても利益が得られるわけです。長期投資に際しては、10年後も利益を稼いでいそうな企業を選んで投資すればよいのです。
株の短期投資で儲けようと思えば、真実を知るより人々の噂が大事だ、というのがケインズの「美人投票」の教えですが、長期投資の場合は真実を知ることが重要です。人の噂も75日ですから、噂は気にする必要はありません。むしろ、優良企業に関して悪い噂が流れていれば、株価が割安に放置されている可能性が高いので、買い時かもしれません。将来、悪い噂が消えて株価が適正水準に戻ることが期待できるからです。
上記のように、短期投資と異なり、長期投資はバクチではない、といってよいでしょう。オーナー社長も事業が成功するか失敗するかの賭けを行なっているわけですが、オーナー社長はバクチ打ちとは呼ばれずに実業家と呼ばれるわけですから、零細な長期投資家は「100万分の1実業家」なのです。
株式投資なら、経営者と違い「人生を賭ける」必要はない
オーナー社長は、成功すれば大金持ちになれますが、失敗すると破産して惨めな人生になりかねません。その点、サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)として安定的な所得を得ながら株の長期投資を行う場合、大金持ちにはなれませんが、失敗しても路頭に迷うリスクはありません。
そして、株式の長期投資の期待値はプラス(確率的には儲かる)のです。儲かっている企業もあり、損している企業もあり、好況時も不況時もありますが、すべての上場企業の決算を長期にわたって平均すればプラスだからです。
プラスになる理由は、経営者たちが臆病(慎重)だからです。儲かる確率が50%のプロジェクトなら実施せず、60%なら実施する、という人が多いなかで、少しだけ大胆な(慎重さが少ない)経営者がいれば、55%の確率で儲かるプロジェクトを容易に手にすることができるからです。
確率的にプラスならば、多くの株を少しずつ買えば、平均は上がるでしょう。具体的には、投資信託を買えば、多くの株を少しずつ買ったのと同じ効果が得られます。買い方も、一度に買わずに積み立て投資をすれば、高い時も安い時も買うことになるので、大儲けは狙えませんが、大損のリスクは減るでしょう。
長期間にわたり投資信託の積み立て投資をすれば、相当高い確率で利益が得られるはずです。過去のデータを使って「積み立て投資を20年続けたとする。何年何月に始めていたら損が出ていたか」を調べると、損が出たケースを見つけるのがむずかしいほどです。
余談ですが、長期投資でバクチを楽しむことも可能です。株価が10倍になるかゼロになるかわからない新興ハイテク企業の株を買えばよいのです。ちなみに筆者は小遣いでバクチを楽しんでいますが、短期売買ではなく、ハイテク株投資です。
本稿は以上ですが、投資判断等は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があります。
塚崎 公義
経済評論家
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