前回は、不動産の価格が一般に「分かりにくい」とされる原因について見ていきました。今回は、大きく3つの仕組みがある不動産の「公的な評価制度」について見ていきます。

大きく3つの仕組みがある公的な評価制度

不動産の公的な評価制度には、大きく3つの仕組みがあります。

 

一つは、国土交通省が毎年定期的に公表する「公示地価」や「都道府県地価調査」です。とりわけ地価公示はその時期になるとメディアでも大々的に報道されるので、不動産に関心を持つ人にはなじみ深いかと思います。公示地価は国全体として、地価調査は都道府県単位で実施するという違いはあるものの、法律に基づき一定の時期に具体の調査地点の価値を評価する、という基本は共通です。ともに不動産取引の指標という位置付けです。

 

残る二つはともに、資産課税を前提にした評価です。一つは「固定資産税評価額」、もう一つは「相続税路線価」です。不動産を所有していると、これらは報道で見聞きするのと違って、もっと身近で切実な存在かもしれません。説明するまでもないでしょうが、土地に対する固定資産税額を決めるために用いるのが固定資産税評価額、土地の相続資産としての評価額を求めるために用いるのが相続税路線価です。

 

固定資産税評価額を除き、公的な評価制度では個別の不動産全ての評価をそのまま示しているわけではありません。公示地価や地価調査では調査地点の評価額は算定されますが、その周辺に位置する土地の評価額はそこから類推するしかありません。

 

相続税路線価は文字通り「路線価」、つまり道路ごとに評価された額ですから、その道路に面する土地の評価額はそこから一定の考え方に基づき算出することになります。いずれにしても、同じ土地に関してこれら3つの評価額が一致することは、まずありません。

不動産は「一物多価」であるという前提に立つ

不動産がかねて「一物多価」であるといわれるのは、そうした実情からです。これもまた、不動産価格の分かりにくさを助長しています。もちろん、「一物多価」であることをとがめているわけではありません。不動産の公的な評価という点では共通でも、その目的は異なります。評価の目的が異なる以上、評価の視点も異なります。評価結果が異なるのは無理もありません。つまり不動産の価値は、それを評価する主体の狙いによって異なって当然ということです。

 

不動産の売買という場面でいえば、買い手にとっての適正な価格は購入検討者によって異なるわけです。同じ土地に対して、1億円が適正であると見る主体もあれば、1憶5000万円が適正であると見る主体もあっておかしくありません。

 

先ほどは、売り手側の事情が不動産の価格形成を左右する、と説明しました。同様に、買い手側の事情も、不動産の価格形成を左右するわけです。こうなると、一つの不動産でも売り手と買い手の組み合わせによって無数の価格が存在しそうです。

 

もちろんそうはいっても、不動産には相場というものがありますから、一定の価格帯には納まります。その一定の価格帯の中でも、互いの組み合わせによって売買成立に至る価格は異なってくるわけです。

 

そうした状況で売り手として考えるべきことは、ただ一つです。その一定の価格帯の中で最も高い価格での売却を目指すということにほかなりません。不動産は「一物多価」であるという前提に立って、「多価」のうちの最高価格を狙うべきなのです。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

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宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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