前回は、周囲の土地をまとめてマンション用地としての価値を高めた事例について見ていきました。今回は、好立地の「中古ビル」が収益物件として魅力的な理由について見ていきます。

世田谷区という立地を考えれば・・・

検査済証がないことから一般には高値で売却することのできなかった東京都世田谷区内の中古ビルの例を再び取り上げます。この中古ビルを総額5000万円で売却したことを、「もったいない」と言い切りました。そう断言したのは、この土地を中古ビルごと購入したのが私だからです。この不動産には本来もっと価値があるのです。

 

この土地の本来の価値の高さは、いま立てている事業計画からも明らかです。この不動産の価値をいま最大限に引き出すには、これがベストとみられる内容です。この不動産をどう利用するのがいいかという角度から考えてみましょう。

 

住宅とすれば、建売住宅です。分譲マンションには敷地の規模が足りません。ただ、総額5000万円という価格は建売住宅用地の仕入れ価格としては上限いっぱいと考えられます。

 

中古ビルを取り壊して整地し、そこに戸建て住宅を建設するとなると、まずビルを取り壊したり測量したりしなければなりません。当然、費用が掛かります。そこにさらに住宅の建設費が上乗せされるわけです。いくら世田谷区内の戸建てとはいえ、とても豪邸とはいえない規模の住宅ですから、建売住宅として売却できる金額は自ずと限られます。

 

私がこの土地で最も有効な活用法だと判断したのは、中古ビルはそのままに改修の手を加えてテナントビルとして貸し出すことです。世田谷区内にもさまざまな表情の街がありますが、この土地は住宅地としても商業地としても人気の街です。商業地といっても全国チェーンの店舗ばかりが立ち並ぶような画一的な街ではありません。昭和の時代から地元で愛され続けているような店やメディアに取り上げられそうなちょっとオシャレな店も数多く並ぶような街です。

 

こうした立地条件を踏まえれば、賃料は坪当たり月額で3万円には設定できるだろうと考えました。テナントとして店舗を想定すれば、ビル事業は十分に成り立ちます。テナントを確保できれば、このビルは収益ビルとして売却することができます。想定する賃料総額と、収益ビルとして期待される表面利回り6%を前提に成約見込み価格をはじくと、少なくとも1憶1000万円という計算です。

 

ここで想定しているような店舗ビルの賃貸借に詳しい専門家に言わせれば、賃料総額はもっと見込めるそうです。その額を基に同じく表面利回り6%を前提に計算し直すと、成約見込み価格は1憶7000万円にまで跳ね上がります。仕入れ値は5000万円。売却価格は1憶7000万円。テナントを入居させたりしているのでまったく同じ不動産とはいえませんが、手を加え、頭を使えば、同じ場所で不動産の価値を大きく引き上げることができるわけです。

場合によっては「購入価格より高い価格」で売却可能!?

収益ビルはいま、市場性も見込めます。しかも総額1億円規模の収益ビルは、金額規模が手ごろであることから、個人資産家が節税対策の一環として購入することが考えられます。例えば相続税対策です。現金で不動産を購入することによって、相続段階での資産評価を抑え、その結果として節税を図るわけです。

 

現金1億円は相続段階で資産額1億円としか評価されませんが、その1億円で購入した不動産、それも第三者に賃貸している収益ビルであれば、資産額の評価は現金と異なり、その7~8割程度に抑えられるのが普通です。テナントに賃貸していることから所有者としての自由な利用が一定程度制約されているという考え方によるものです。そうした相続段階での資産評価の仕組みを活用した節税法としてよく用いられているものです。

 

この場合、買い手は現金で購入するわけですから、金融機関から融資を受けることはありません。融資を受けないのであれば、この中古ビルのもともとの売りづらさの原因の一つである検査済証の問題は自然と解消されます。相手が一般個人でも問題なく売却できるわけです。

 

ただ買い手の立場に立てば、不動産の価値が大きく目減りして、節税目的で現金を不動産に置き換えたのが災いになってしまうような事態は避けなければなりません。現金をどのような不動産に置き換えるのかという点に関しては十分な注意が必要です。

 

その点、立地条件に恵まれ、一定程度の利回りを確保できるこの収益ビルは、そうした心配の不要な、資産価値を維持しやすい不動産といえます。この収益ビルを購入することで、買い手はまず相続税対策を講じられます。しかも、表面利回り6%のビルですから、毎月、一定の賃料収入を得られます。

 

さらに、いざこのビルを売却する段階でも、資産価値を維持しやすい立地条件や収益力を備えているだけに、場合によっては購入価格より高い価格で売却することさえ可能です。当初5000万円の不動産が、手を加え、頭を使っただけで、買い手にとって魅力的で市場性も見込める1憶7000万円の不動産に化けるのです。ともすると、土地利用の自由度の高い更地の方が売りやすいように思われます。しかし、必ずしもそうとは限らないのが、この収益ビルの例です。

 

更地ではそこを利用するにしても使い方が限られます。建物への新規投資をしない限り、駐車場くらいなものです。ところが、中古とはいえ既存ビルがあるなら、そこを賃貸することができます。立地条件の良い場所であれば、その収益力は更地の比ではありません。不動産に既存建物が立っている場合、売り手側で更地にして売却するのがいいか、中古建物付きのままで売却した方がいいか、買い手の立場に立って、その不動産がもたらす収益力に着目して判断すべきです。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

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宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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