前回は、「接面道路の一部が第三者の所有地」であることから、融資を受けられない不動産の実例を見ていきました。今回は、不動産の価格が一般に「分かりにくい」とされる原因を見ていきます。

売り手側の事情が反映されやすい「不動産価格」

ここで改めて、不動産の価格とは何かという点について考えてみましょう。一般的に市場で売買されているもののなかで、これほど分かりにくいものは、ほかにはないと思います。その価格が「一物一価」ではないからです。

 

不動産市場は基本的には中古市場と考えられます。新しく整備された分譲宅地や新築の分譲マンションや建売住宅もあるとはいえ、中古住宅はもちろん、非住宅用途のビルで売買市場に供給されるものの多くは中古です。土地にしても、埋め立て地や新しく山林を開いた土地などを除けば、やはり多くは中古です。

 

世の中、中古売買は少なくありません。車もあれば、家具や家電もあります。古本や古着も暮らしのなかでよく利用されています。これら中古市場でよく売買されるものと不動産が大きく異なるのは、不動産だけはもともとの所有者が売りに出すという点です。

 

車も家具・家電も書籍も衣類も、売り手からいったんプロの流通会社が買い取って、それをエンドユーザー向けに売りに出す、というスタイルが一般的です。フリーマーケットやネットを利用した中古売買ではもともとの持ち主が直接買い手を見つけて売買を成立させますが、プロの流通会社を間に挟む方がまだ一般的でしょう。

 

実はここに、不動産の価格の分かりにくさの一端が隠れています。それは、売り手側の事情が価格に反映されやすい、という点です。

 

不動産を売却しようとする人は当然それなりの理由があって売却に踏み切るわけです。資金需要があってその調達のために売却する場合もあるでしょうし、その土地を所有し続ける必要性を感じられないため売却する場合もあるでしょう。その理由の差が、買い手との間で手を打つ最終的な価格の差をもたらします。

 

購入検討者から価格引き下げの要求を受けた場合、事情があって一刻も早く不動産を現金化したいという売り手であれば、その価格引き下げ要求を容易に受け入れて、少しでも早く換金しようとするでしょう。それで取引が成立すれば、成約価格は売り出し価格に比べると当然、低くなります。

 

売り手が売らざるを得ない状況に立たされている場合ほど、買い手は価格交渉を優位に進められます。その結果、安く買い叩かれてしまう例は、決して少なくありません。

同じ不動産であっても、売り手によって価格は異なる

これに対して中古の車や家具・家電などのように、売り手がプロであればどうでしょうか。プロが売却する理由は明快です。それが、商売だからです。資金調達のために売却するわけでも、所有し続ける必要性を感じられないため売却するわけでもありません。あくまで商品として売却し、それによって収益を上げる。それが目的です。

 

価格引き下げ交渉には一切応じないとは言いませんが、商売として売却する以上、限度はあります。売却するという行為に対する構え方が、個人とは大きく異なるわけです。

 

不動産はこのように、中古のものを所有者自ら売りに出します。そのため、所有者である売り手側の事情が、価格形成を左右します。

 

たとえ同じ不動産であっても、売り手が異なればそれを売りに出す事情も異なるため、売却希望価格にも取引成立に至る価格にも差が生じます。「一物多価」である理由の一つが、ここにあります。不動産の価値をどう評価するかという点も、同じです。

 

誰が評価するかによって違いがあるため、同じ不動産でも一律に評価されるとは限りません。不動産の公的な評価制度を見ても、それは明らかです。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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