売却時に想定される「課税関係」に注意しなければならないワケ
2. 事前に、売却に伴う課税関係と各相続人の手取り額の見込みを確認し、予想外の不平等が生じないかどうか確認する
(1)譲渡所得税の申告・納付義務
換価分割と代償分割のいずれの方式を採用する場合でも、相続税とは別途、不動産売却時に売却対象不動産の売主に譲渡所得税が課税されるため、譲渡所得税を考慮に入れておかないと、実質的に、売却代金を平等に分けることができないという事態が発生するので注意が必要です。
譲渡所得税額は、「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)- 特別控除額(一定の場合)」で算出した「課税譲渡所得金額」に税率を掛けて計算します。
この税率は、売買が「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」のいずれに該当するかによって異なります。不動産を売却した年の1月1日現在で、売却した不動産の所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり税率は39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)ですが、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」となり税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
です。なお、所有期間が10年を超える場合には、軽減税率の特例があり、これが適用できる場合は、課税譲渡所得が6,000万円までの部分の税率が14.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%、住民税4%)となります。
なお、復興特別所得税は、2037年まで加算されます。
(2)換価分割・代償分割の際に検討すべき税金控除・特例制度
不動産売却により発生する譲渡所得税については、一定の条件を満たすことを条件に、これを軽減することのできる制度がいくつかあります。そのうち、相続した不動産を売却する場合に検討すべき制度として、以下の制度があります。なお、これらの制度は、いずれも執筆時(令和5年7月)現在の制度であり、将来的に廃止、変更等が生じ得ますので、随時最新の情報を入手するようにしてください。
① 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
居住用財産(マイホーム)を売却した場合、売主の居住用の不動産であること、買主が配偶者等の特別な関係ではないこと等の一定の条件を満たせば、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります(以下「マイホーム特例」といいます。)。
なお、売却時に居住していなくても、居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までであれば本特例を使うことができます。
② 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
相続した不動産を平成28年4月1日から令和5年12月31日までに売却した場合、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたことや、区分所有建物登記の建物ではないこと、相続直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと等の一定の条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円まで控除することができる特例があります(以下「空き家特例」といいます。)。
③ 相続した不動産の場合の取得費加算特例
相続した不動産を、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売却した場合、売主が不動産を相続や遺贈によって取得したこと、相続税が課税されていること等の一定の条件を満たせば、納付済みの相続税のうちの一定金額を、課税譲渡所得額算出の際の「取得費」に加算することができる制度があります(以下「取得費加算特例」といいます。)。