恨まれたくない! 父の遺産「自宅」売却金を兄弟3人で分割することになったが…禍根を残さないための対策は?【弁護士が解説】

相川 泰男
恨まれたくない! 父の遺産「自宅」売却金を兄弟3人で分割することになったが…禍根を残さないための対策は?【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり、相続人は長男(相談者)と2人の弟の計3名です。遺産は自宅のみであるため、相談者が自宅を相続したのち売却して売却代金を3等分し、弟2人に送金するつもりです。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「相続不動産の売却における遺産分割方法の選択」について解説します。

売却時に想定される「課税関係」に注意しなければならないワケ

2. 事前に、売却に伴う課税関係と各相続人の手取り額の見込みを確認し、予想外の不平等が生じないかどうか確認する

(1)譲渡所得税の申告・納付義務

換価分割と代償分割のいずれの方式を採用する場合でも、相続税とは別途、不動産売却時に売却対象不動産の売主に譲渡所得税が課税されるため、譲渡所得税を考慮に入れておかないと、実質的に、売却代金を平等に分けることができないという事態が発生するので注意が必要です。

 

譲渡所得税額は、「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)- 特別控除額(一定の場合)」で算出した「課税譲渡所得金額」に税率を掛けて計算します。

 

この税率は、売買が「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」のいずれに該当するかによって異なります。不動産を売却した年の1月1日現在で、売却した不動産の所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり税率は39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)ですが、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」となり税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)

 

です。なお、所有期間が10年を超える場合には、軽減税率の特例があり、これが適用できる場合は、課税譲渡所得が6,000万円までの部分の税率が14.21%(所得税10%、復興特別所得税0.21%、住民税4%)となります。

 

なお、復興特別所得税は、2037年まで加算されます。

 

(2)換価分割・代償分割の際に検討すべき税金控除・特例制度

不動産売却により発生する譲渡所得税については、一定の条件を満たすことを条件に、これを軽減することのできる制度がいくつかあります。そのうち、相続した不動産を売却する場合に検討すべき制度として、以下の制度があります。なお、これらの制度は、いずれも執筆時(令和5年7月)現在の制度であり、将来的に廃止、変更等が生じ得ますので、随時最新の情報を入手するようにしてください。

 

① 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、売主の居住用の不動産であること、買主が配偶者等の特別な関係ではないこと等の一定の条件を満たせば、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります(以下「マイホーム特例」といいます。)。

 

なお、売却時に居住していなくても、居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までであれば本特例を使うことができます。

 

② 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例

相続した不動産を平成28年4月1日から令和5年12月31日までに売却した場合、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたことや、区分所有建物登記の建物ではないこと、相続直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと等の一定の条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円まで控除することができる特例があります(以下「空き家特例」といいます。)。

 

③ 相続した不動産の場合の取得費加算特例

相続した不動産を、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に売却した場合、売主が不動産を相続や遺贈によって取得したこと、相続税が課税されていること等の一定の条件を満たせば、納付済みの相続税のうちの一定金額を、課税譲渡所得額算出の際の「取得費」に加算することができる制度があります(以下「取得費加算特例」といいます。)。

次ページ「換価分割」と「代償分割」それぞれのメリット・デメリット

※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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