「換価分割」と「代償分割」それぞれのメリット・デメリット
3. 遺産分割協議書に、不動産の売却方針や決定権等が定めてあるかを確認する
(1)換価分割の場合
換価分割の場合、譲渡所得税を申告・納税しなければいけないのは、売却代金を受け取る相続人全員であり、便宜的に特定の相続人の単独名義に相続登記をして売却した場合でも、売却代金を受け取る相続人全員に申告・納税義務が発生します。
本事例のように、売却対象不動産に居住している相続人と、居住していない相続人がいる場合、そこに居住していた相続人(本事例の長男)だけがマイホーム特例を使うことができるため、次男と三男には譲渡所得税が課税されるが、長男には課税されない(あるいは、次男と三男よりかなり低額になる)という事態が生じ得ます。
そのため、遺産分割協議書の中で、単に「換価の上、売却代金を各自が1/3ずつ取得する」という内容で合意してしまうと、手取り金額を比較した場合には不平等が生じるので、それを避けるためには、あらかじめ、各自の譲渡所得税額を検討した上で、三者で分配する割合や金額を調整する必要があります。
他方、売却対象不動産に居住する相続人がいない場合は、空き家特例を使うことができるかを検討する必要があります。
なお、譲渡所得税の計算に当たっては、売却代金を取得する相続人全員について、一定の条件を満たすことで取得費加算特例を使うことができ、全員について相続税の一部を取得費に加算することができます。
(2)代償分割の場合
代償分割の場合、譲渡所得税を申告・納税しなければならないのは、遺産分割で売却対象不動産を取得した相続人のみであり、代償金を受け取るだけの相続人には譲渡所得税は課税されません。本事例でいえば、長男のみが譲渡所得税の申告・納付を要し、その際に、長男が一定の条件を満たせば、マイホーム特例と取得費加算特例を適用することができます。
長男が、マイホーム特例や空き家特例の適用を受けることができない場合や、特例の適用を受けてもなお譲渡所得税が発生する場合には、予想外に長男の手取り金額が減り、不公平が生じるため、あらかじめ、長男が負担する譲渡所得税を検討した上で、代償金額を定めておく必要があります。
なお、譲渡所得税の計算に当たっては、売主となる相続人(本事案では長男)についてのみ、一定の条件を満たすことで取得費加算特例を使うことができ、相続税の一部を取得費に加算することができますが、長男が、次男と三男に払った代償金を取得費に加算することはできません。