恨まれたくない! 父の遺産「自宅」売却金を兄弟3人で分割することになったが…禍根を残さないための対策は?【弁護士が解説】

相川 泰男
恨まれたくない! 父の遺産「自宅」売却金を兄弟3人で分割することになったが…禍根を残さないための対策は?【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり、相続人は長男(相談者)と2人の弟の計3名です。遺産は自宅のみであるため、相談者が自宅を相続したのち売却して売却代金を3等分し、弟2人に送金するつもりです。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「相続不動産の売却における遺産分割方法の選択」について解説します。

「換価分割」と「代償分割」それぞれのメリット・デメリット

3. 遺産分割協議書に、不動産の売却方針や決定権等が定めてあるかを確認する

(1)換価分割の場合

換価分割の場合、譲渡所得税を申告・納税しなければいけないのは、売却代金を受け取る相続人全員であり、便宜的に特定の相続人の単独名義に相続登記をして売却した場合でも、売却代金を受け取る相続人全員に申告・納税義務が発生します。

 

本事例のように、売却対象不動産に居住している相続人と、居住していない相続人がいる場合、そこに居住していた相続人(本事例の長男)だけがマイホーム特例を使うことができるため、次男と三男には譲渡所得税が課税されるが、長男には課税されない(あるいは、次男と三男よりかなり低額になる)という事態が生じ得ます。

 

そのため、遺産分割協議書の中で、単に「換価の上、売却代金を各自が1/3ずつ取得する」という内容で合意してしまうと、手取り金額を比較した場合には不平等が生じるので、それを避けるためには、あらかじめ、各自の譲渡所得税額を検討した上で、三者で分配する割合や金額を調整する必要があります。

 

他方、売却対象不動産に居住する相続人がいない場合は、空き家特例を使うことができるかを検討する必要があります。

 

なお、譲渡所得税の計算に当たっては、売却代金を取得する相続人全員について、一定の条件を満たすことで取得費加算特例を使うことができ、全員について相続税の一部を取得費に加算することができます。

 

(2)代償分割の場合

代償分割の場合、譲渡所得税を申告・納税しなければならないのは、遺産分割で売却対象不動産を取得した相続人のみであり、代償金を受け取るだけの相続人には譲渡所得税は課税されません。本事例でいえば、長男のみが譲渡所得税の申告・納付を要し、その際に、長男が一定の条件を満たせば、マイホーム特例と取得費加算特例を適用することができます。

 

長男が、マイホーム特例や空き家特例の適用を受けることができない場合や、特例の適用を受けてもなお譲渡所得税が発生する場合には、予想外に長男の手取り金額が減り、不公平が生じるため、あらかじめ、長男が負担する譲渡所得税を検討した上で、代償金額を定めておく必要があります。

 

なお、譲渡所得税の計算に当たっては、売主となる相続人(本事案では長男)についてのみ、一定の条件を満たすことで取得費加算特例を使うことができ、相続税の一部を取得費に加算することができますが、長男が、次男と三男に払った代償金を取得費に加算することはできません。

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※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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