(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり、相続人は長男(相談者)と2人の弟の計3名です。遺産は自宅のみであるため、相談者が自宅を相続したのち売却して売却代金を3等分し、弟2人に送金するつもりです。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「相続不動産の売却における遺産分割方法の選択」について解説します。

相続不動産の売却における遺産分割方法の選択

父が亡くなり、相続人は長男の私を含めた兄弟三人です。父の遺産は、父と私が住んでいた自宅のみなので、将来的に自宅を売却して、売却代金を兄弟三人で分けることにしました。弟たちは遠方にいて多忙なので、長男である私のみで自宅を売却し、売却代金を三等分して弟たちに送金してほしいと言われています。

 

紛争の予防・回避と解決の道筋

◆換価処分のために、便宜的に相続人一名への単独の登記名義にすることは可能だが、換価代金を他の相続人へ送金する行為が、税務上贈与と認定されて贈与税の負担が生じる可能性がある。これを回避するために、遺産分割協議書において換価分割による送金であることを明確にする必要がある

 

◆換価分割と代償分割のいずれの手法を選択するかによって、適用される税制が異なるため各自の税引き後の最終的な手取り額に差が出てしまい、不平等が生じる可能性がある。実質的に平等な配分をするためには、事前に適用される税制を調査の上、手取り額を確認する必要がある

 

◆相続人間で、売却時期、金額について意見がまとまらず、なかなか売却ができないという事態が生じる可能性があるので、あらかじめ、遺産分割協議書の中で、売却条件や決定権者を定めておくことが有効である

 

チェックポイント

 

1. 換価分割または代償分割の結果としての金銭支払が明記してあるかを確認する。換価分割の場合、リスクを踏まえて相続登記名義を検討する

 

2. 事前に、売却に伴う課税関係と各相続人の手取り額の見込みを確認し、予想外の不平等が生じないかどうか確認する

 

3. 遺産分割協議書に、不動産の売却方針や決定権等が定めてあるかを確認する解説

解説

1. 換価分割または代償分割の結果としての金銭支払が明記してあるかを確認する。換価分割の場合、リスクを踏まえて相続登記名義を検討する

(1)換価分割と代償分割

遺産分割において、相続した不動産を売却して、売却代金を相続人間で分ける手法としては、換価分割と代償分割の二つの方法が考えられます。

 

換価分割は、相続人全員で不動産を売却し、売却代金から諸費用を控除した残金を相続人間で分配する方法であり、代償分割は、特定の相続人が不動産を単独で取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。

 

代償分割の手法をとる場合は、当該不動産を売却しない場合が多いと思われますが、比較的早い段階で当該不動産を売却して売却代金を原資に代償金を支払う場合には、換価分割とほぼ同じ状況となります。

 

なお、換価分割の場合、不動産を一旦相続人全員の共有名義で登記することが多いと思いますが、相続人の一部が海外にいるなどの事情で共有名義にすると売却が困難となる場合には、換価分割の実行のために、便宜的に、特定の相続人の単独名義に相続登記をした上で(国税庁質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」でも、換価の都合上、共同相続人のうち一人の名義に相続登記ができることを前提に、贈与税がかからない旨を明記しています。後述。)、その相続人のみで売却活動をすることもできるとされています。

次ページ登記面・税務面において想定される「2つのリスク」

※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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