死亡保険金の受取人が遺言で変更された場合の対応
夫が亡くなりました。夫は、生前、ほぼ全財産をはたいて私を受取人とする死亡保険金1億円の養老保険に入っていました。しかし、数年前、夫は別の女性と生活をしたいと言い出し、家を出ていってしまったので、私とは別居生活でした。夫は、保険金受取人を私からその女性との間にできた子どもに変更する旨の遺言書を作成していました。
紛争の予防・回避と解決の道筋
◆死亡保険金の受取人は約款に特別の定めがない限り、遺言により変更することができる
◆死亡保険金の受取人の変更は遺贈または贈与に当たらず、遺留分侵害額請求の対象とならない
◆死亡保険金は、原則として特別受益とはならないが、不公平が著しいと評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となる
◆特別受益が他の相続人の遺留分を侵害している場合には、遺留分侵害額請求の対象となり得る
チェックポイント
1. 受取人の変更に関する保険契約の約款を確認する
2. 保険契約者の変更を検討する
3. 死亡保険金が特別受益となる「特段の事情」を確認する
4. 遺留分侵害額請求の可否を検討する
解説
1. 受取人の変更に関する保険契約の約款を確認する
(1) 遺言による保険金受取人の変更に関する保険法の定め
遺言が執行ないし実現の対象となるのは、法定された遺言事項に限られるところ、商法から抜き出され単行法として平成20年に成立した保険法(平成22年4月1日施行)44条1項により、遺言によって生命保険の保険金受取人を変更できることが明定されました(なお、傷害疾病定額保険契約の保険金受取人を遺言により変更できることにつき保険法73条1項。)。ただし、この定めは任意規定と解されており、保険契約(約款)に異なる定めがあれば、保険契約の定めの方が優先します。
また、遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ保険者に対抗することができないとされています(保険44②)。
この通知は、保険契約者の相続人が複数存在する場合でも、相続人の一人が通知を行えばよいとされ、遺言執行者による通知も認められています(萩本修編『一問一答保険法』185頁(商事法務、2009))。