売却手続を円滑に進めるコツ
(3)相続税における小規模宅地の特例の適用と売却時期
本事例では、長男が、被相続人の相続開始の直前に、被相続人と自宅で同居しているため、長男が相続で自宅土地を取得する場合、一定の条件を満たせば、自宅土地の一定の面積までを、相続税の課税価格の計算上減額する特例があります(以下「小規模宅地の特例」といいます。)。
本事例で、小規模宅地の特例が適用されると、相続税の課税価格の計算に当たり、長男が取得した自宅土地の相続税評価額が80%減額されます。
例えば、自宅土地の相続税評価額すなわち路線価が1億円の場合でも、2,000万円で評価されるため、大幅に相続税を圧縮することができます。
しかしながら、小規模宅地の特例を適用するためには、原則として、自宅土地を取得する者(ただし、配偶者を除きます。)が、被相続人の相続開始時から相続税申告期限(相続開始から10か月)まで、同土地を保有し続けていることが要件となるため、小規模宅地の特例を使う場合は、相続税の申告期限後でなければ、自宅土地を売却できないことに注意が必要です。
そのため、自宅土地を売却して相続税納税資金を調達するということができないので、長男は、一旦は納税資金を別の方法で用意する必要があります。
(4)売却手続の円滑化
一般に、不動産については、その売却時期によって売却代金に変動が生じ得ることから、換価分割の場合、売主となる相続人の間で不動産の売却時期や代金をめぐって意見が対立すると、売却手続が事実上進まないという事態が考えられます。
このような事態を避けるためには、遺産分割協議書の中で、長男に売却に関する決定権がある(次男と三男はこれに異議を述べない)ということを明記したり、売却の期限を合意しておくといった対応が考えられます。
代償分割の場合、長男に不動産を売却しなくとも代償金を支払うだけの資力がある場合には、長男は、代償金を支払った後、自分の望むタイミングで売却を実施することができます。
他方、代償金支払のために不動産を売却しなければならないという場合には、不動産の売却時期が代償金の支払時期に影響を与えるため、不動産売却の時期を見据えて、代償金の支払期限を設定する必要があります。
〈執筆〉
大畑敦子
オリゾン法律事務所
弁護士
1995年3月 慶應義塾大学法学部法律学科 卒業
1999年4月 最高裁判所司法研修所 入所(第53期)
2000年10月 東京弁護士会に弁護士登録
小野孝男法律事務所(現弁護士法人小野総合法律事務所)入所
2005年~2017年 国立大学法人九州大学にて非常勤講師(財政法特別講義担当)
2011年1月 同期弁護士と共にエトワール総合法律事務所 設立
2011年~現在 東京地方裁判所鑑定委員(借地非訟事件)
2022年5月 オリゾン法律事務所 開設
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)