対応策
事前の金額の合意がない以上、過去の例や相場を伝え交渉するしかない
今回のケースではZさん(Y社)からの依頼に基づき、ロゴ・名刺デザインについては既に完成・納品済であるため、このデザインに対する報酬についてはZさん(Y社)に請求することができるといえるでしょう。
また、Webデザインについても完成済であり公開間近だったということなので、Webデザインに対する報酬についても請求可能な状態にあるといってよさそうです。
もっとも、今回はこれらのデザイン報酬の金額につき事前合意がありません。通常の案件受注の際と同様、見積書をクライアントに提出するなどして、事後的に金額の合意ができればそれで問題ありません。
しかし、今回のケースのようにZさん側が提示する金額と、Xさんが希望する金額に差がある場合には、簡単には合意できないでしょう。
話し合いで折り合いがつかない場合、裁判などの法的手続を行う方法もあります。しかし、Xさんの希望金額は30万円程度のため、裁判などの法的手続にかかる時間的・金銭的・心理的コストを払うことは、現実的ではありません。
結局、過去の他案件での請求額やデザイン料金の相場感を伝え、少しでも納得する金額に近づくようZさん側と交渉を続けることしか手段はありません。
しかし、Zさん側が悪質である場合、いつ音信不通になり、当初申し出ていた金額すら支払われなくなるかもわかりません。こういったリスクも踏まえると、現実的には今回は高い勉強代だと思って、Zさん側の提示金額で妥結するという選択をするのも一案でしょう。
予防策
ひとつひとつの作業や業務内容ごとに事前に報酬金額の合意をする
今回のようなケースを予防するには、何よりも事前に報酬金額の合意をしておくことが重要です。[図表1]のように、ひとつひとつの作業や業務内容ごとに事前に報酬金額の合意をすることが大事です。ひとつひとつの業務ごとに詳しく単価を記載することで、作業が増えたときに金額交渉がしやすくもなるので、この方法はおすすめです。
「見積書などにより金額を伝えたうえで案件がスタートするのは当然のことでは?」と思っている方もいるかもしれません。
しかし、「案件受注時に具体的な金額を決められない合理的な何らかの理由がある場合」「どうしてもやりたい案件で受注前に金額に関する交渉を行うと失注するかもしれない場合」「友人・知人関係など相手方とある程度の信頼関係がある場合」「ざっくりとした予算感だけを伝えられ、なし崩し的に着手を行うことになってしまった場合」など、金額をはっきりと決めないまま受注してしまうケースは案外多いものです。
しかし、これらの場合であっても、何よりも事前に報酬金額の合意をしておくことが重要なことに変わりはありません。どうしても事前には報酬額を決められない場合は、少なくとも最低金額や報酬金額の目安・相場感を書面やメールなどで伝えておきましょう。
いざトラブルとなった際には、それらが交渉の材料になってくれます。
■ワンポイントアドバイス
一般的な報酬金額の相場感を伝える際に何を参考にしてよいかわからない方も多いかもしれません。特に正解があるわけではありませんが、一例としては日本イラストレーター協会が提示している料金表や、各デザイン会社や事務所がWebサイトなどで公開している料金表などを参考にすることが考えられます。
宇根 駿人
大道寺法律事務所
弁護士
田島 佑規
骨董通り法律事務所
弁護士