アイデア・方向性の提案をしたあと、クライアントが音信不通になった
類似のケース
●自分のアイデアが無断利用されているのを発見した
● ボツになったアイデアが勝手に使われていた
相談事例
あれ? これって私が以前提案したアイデアじゃない?
デザイナーのXさんは、お菓子メーカーのY社から、「新商品を開発しており、そのロゴとパッケージデザインを制作してくれるデザイナーを探している。Xさんにお願いした場合、どういったデザインになりそうか、まずはそのアイデアや方向性の提案をお願いできないか? また、実際にお願いするとした場合の見積もりもいただきたい」と連絡がありました。
Y社は、有名なお菓子メーカーであり、Xさんとしてもぜひとも受注したかったことから、気合を入れて、具体的なデザインの前提となるアイデアや方向性をまとめ、見積書とともに提案しました。
Y社からは、「ありがとうございます。検討のうえ、ご連絡させていただきます」と返信がありましたが、その後連絡が取れなくなってしまいました。
実は、今回のY社の案件だけでなく、このようなことが過去に何回か続いており、Xさんは困っています。
そんなある日、街を歩いていると、Xさんのアイデアを具体化したようなロゴ・パッケージデザインのY社の新商品が販売されていました。
Xさんは「特にY社から何の連絡もなく、勝手に自分のアイデアが使われている」と考え、何かY社に対して主張できることはないかと悩んでいます。
対応策
残念ながら、これからの対応は難しい
Xさんが主張できる可能性があることとしては、「①自分のアイデアを無断利用されたことに関するもの」と「②アイデアを提案したことに対する対価の請求」が考えられます。
まず、「①自分のアイデアを無断利用されたことに関するもの」について説明します。
一般的に、具体的表現の前提となるアイデアに著作権は発生しないと考えられており、今回の件において著作権に基づく請求を行うのは困難でしょう。
なお、単なるアイデアを超えて、アイデアを具体化した表現まで無断利用されていた場合には、著作権侵害などが主張できる可能性はあります。
そのうえで、自分のアイデアを守るためには、予防策で後述する通り、NDA(秘密保持契約)を締結することが考えられます。
しかし、すでに新商品も販売されており、Y社がXさんとのNDAを締結するインセンティブは全くないことから、現時点からNDAの締結を依頼しても効果はないと思われます。そのため、①について、これからXさんが何らかの対応をとることは難しいといえるでしょう。
次に、「②アイデアを提案したことに対する対価の請求」についてです。
この点のポイントは、アイデアを提案する業務に関し対価が発生するものとして契約が成立していたかというところです。
今回の件では、XさんはY社から、「実際にお願いするとした場合の見積もりもいただけるとありがたい」と伝えられています。通常は、見積もり→発注の申し込み→受注の承諾、という流れであることが考えられ、この場合、受注を承諾した時点で契約が成立するものと考えられます。
したがって、見積もりを提出した後、正式な発注の申し込みがない段階で、音信不通となっている今回の件では、契約が成立していると解釈することも困難です。
以上の通り、今回の件において、これからXさんが何らかの対応をとることは難しいといえるでしょう。