●賃金は労働生産性に労働分配率をかけたものであり、労働生産性や労働分配率の変化で変動。
●賃上げ継続には労働生産性の上昇が必要、賃上げ機運の高まりで労働生産性の動向が重要に。
●企業の労働生産性は回復傾向、労働分配率を踏まえると、2025年も賃上げ継続が期待される。
賃金は労働生産性に労働分配率をかけたものであり、労働生産性や労働分配率の変化で変動
4月9日付レポートでは、賃上げの継続には、「労働生産性」の持続的な上昇が必要であり、これが賃金と物価の好循環が実現するための重要な要素であると説明しました。そこで、今回のレポートでは、日本企業の労働生産性が近年どのように推移してきたかを検証し、2025年の賃上げ動向を探ります。なお、労働生産性などのデータは、財務省が公表している法人企業統計から取得し、賃金は名目賃金とします。
労働生産性とは、従業員1人が生み出す「付加価値」のことで、付加価値を従業員数で割って求めることができます。付加価値は、「人件費」、「支払利息等」、「動産・不動産賃借料」、「租税公課」、「営業純益」の合計で、付加価値に占める人件費の割合を「労働分配率」といいます。労働生産性に労働分配率をかけたものが賃金となるため、労働生産性や労働分配率の変化で、賃金も変動します。
賃上げ継続には労働生産性の上昇が必要、賃上げ機運の高まりで労働生産性の動向が重要に
例えば、従業員1人が生み出す付加価値が増え、労働生産性が上昇すれば、労働分配率が一定でも、賃金は上昇します。一方、労働生産性が一定でも、労働分配率を引き上げれば、同じく賃金は上昇します。ただ、後者の場合、従業員1人が生み出す付加価値が増えないまま労働分配率を引き上げるため、資本分配率の低下によって資本の蓄積が停滞し、企業は成長を維持できなくなります。
したがって、企業が賃上げを継続していくには、労働生産性を持続的に高めることが必要となります。労働団体の「連合」によると、2023年の平均賃上げ率は3.58%と、30年ぶりの高い水準になりましたが、2024年は5%を超え、33年ぶりの高水準に達する見通しとなっています。このように、国内の賃上げ機運は昨年来、非常に高まっていますが、日本企業の労働生産性の上昇は伴っているのか、気になるところです。
企業の労働生産性は回復傾向、労働分配率を踏まえると、2025年も賃上げ継続が期待される
そこで、法人企業統計より、全産業(金融業、保険業を除く)、全規模の企業データを取得し、労働生産性の推移を確認したところ、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、一時大きく低下したものの、最近では持ち直し傾向にあります(図表1)。そのため、昨年来の賃金引き上げの動きは、労働生産性の上昇を伴ったものであり、2025年も賃上げ継続への期待が高まります。
なお、労働分配率をみると、長期的には緩やかな低下傾向が続いていることが分かります(図表2)。そのため、労働生産性の回復傾向が続く限り、企業にはある程度、労働分配率を踏まえて賃金を引き上げる余地が生じると思われます。現在、2024年の平均賃上げ率は5%を超える見通しとなっていますが、企業の労働生産性と労働分配率の推移を踏まえると、2025年の平均賃上げ率が同程度の水準になっても、それほど違和感はないと考えます。
(2024年4月19日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『平均賃上げ率「33年ぶりの高水準」だが…2025年も「賃上げ継続」が期待されるワケ【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト
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