(※写真はイメージです/PIXTA)

チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)が解説します。

 

●国内物価の上昇はコロナの感染拡大やウクライナ情勢に起因、輸入物価上昇が国内に波及した。

●期待で物価は上昇しなかったが、今はデフレ脱却の好機、ただ実質賃金はマイナスで消費は低調。

●今年の大幅な賃上げ見通しは好材料だが賃上げ継続には労働生産性の持続的な上昇が必要。

国内物価の上昇はコロナの感染拡大やウクライナ情勢に起因、輸入物価上昇が国内に波及した

3月22日に発表された2月の消費者物価指数(CPI)では、生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)が、前年同月比で2.8%上昇しました。政府による電気・ガス料金の負担軽減策開始から1年が経過し、1年前と比べた物価の押し下げ効果が薄れ、伸び率は4ヵ月ぶりに拡大しました。コアCPIは2021年以降、上昇基調をたどっていますが、これは新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や、ウクライナ情勢に起因したものと考えられます。

 

コロナの感染拡大により、生産や物流に制約が生じた一方、感染一服後はリベンジ消費が急拡大し、需要に供給が追いつかず、多くの国で物価が上昇しました。また、ロシアのウクライナ侵攻の影響で、原油などエネルギー価格が高騰したことも、物価上昇に拍車をかけました。エネルギーの8割以上を輸入している日本は、円安の進行も重なり、原油高が輸入物価を押し上げ(図表1)、企業物価に波及し、国内の物価上昇につながりました(図表2)。

 

[図表1]原油価格と輸入物価の推移

 

[図表2]企業物価と消費者物価の推移

期待で物価は上昇しなかったが、今はデフレ脱却の好機、ただ実質賃金はマイナスで消費は低調

なお、日銀の黒田東彦前総裁は、「中央銀行が物価安定に向けた強い意志を示すことが、人々の期待に働きかけ、金融政策の効果を高める」との考え方に基づき、2013年以降、10年にわたって異次元緩和を推進してきました。しかしながら、結果的に「人々の期待」で2%の物価目標を達成することはできず、実際に物価を押し上げたのは、前述の通り、コロナの感染拡大やウクライナ情勢といった「外生的なショック」でした。

 

たとえきっかけが外生的なショックであっても、国内物価が明確な上昇基調をたどるようになったことは、日本経済にとってデフレ脱却の好機です。しかしながら、名目賃金の伸びが物価上昇に追いついておらず、4月8日に発表された2月の実質賃金は前年同月比1.3%減少し、23ヵ月連続でマイナス、また、4月5日に発表された2月の実質消費支出(2人以上世帯)は前年同月比0.5%減少し、12ヵ月連続でマイナスとなっています。

今年の大幅な賃上げ見通しは好材料だが賃上げ継続には労働生産性の持続的な上昇が必要

こうしたなか、国内では賃上げの機運が高まっており、2024年の平均賃上げ率は、2023年実績の3.58%を上回り、5%を超える見通しです。物価の伸びを上回る大幅な賃上げで、実質賃金と消費が増えれば、企業はサービス価格や製品価格に人件費を転嫁しやすくなり、国内物価の持続的・安定的な伸びが期待されます。これが日銀の重視する「物価から賃金、賃金から物価の双方向の好循環」です。

 

ただ、実質賃金(時間あたり雇用者報酬)は、「労働生産性」に「労働分配率」をかけたものであるため、例えば労働生産性が上昇しないまま、実質賃金を引き上げようとすると、労働分配率の引き上げが必要となります。しかしながら、この場合、資本分配率が低下し、企業は成長を維持できなくなります。したがって、賃上げの継続には、労働生産性の持続的な上昇が必要であり、これが賃金と物価の好循環が実現するための重要な要素と考えます。

 

(2024年4月9日)

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『平均賃上げ率「5%超え」だが…「賃金と物価の好循環」実現のための“重要な要素”とは?【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

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