弟に多額の借金→父の遺産を母親にすべて相続させようとしたら〈債権者〉が激怒! 弟に相続させない遺産分割協議は詐害行為になる?【弁護士が解説】

弟に多額の借金→父の遺産を母親にすべて相続させようとしたら〈債権者〉が激怒! 弟に相続させない遺産分割協議は詐害行為になる?【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり、相続人は母・長男(相談者)・二男の3人で、相続財産は主に自宅不動産です。弟に多額の負債があるため、遺産をすべて母に相続させるという遺産分割協議書を作成したところ、債権者から「詐害行為」だと指摘されました。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「遺産分割協議に対する詐害行為取消の可否」について解説します。

ポイントとなる「特段の事情」の有無はどう判断すればよいのか

この点、裁判例では、遺産分割に基づく所有権移転登記の直前に、受益者(本事例でいう母)が、税理士から、特定の相続人(本事例でいう弟)に多額の負債があることを知らされて、遺産である不動産の名義を受益者に変えた方がよいとの助言を受けて遺産分割およびそれに基づく登記手続を行った事実を認定の上、当該事実から受益者の悪意を認めた事例があります(東京地判平18・11・30(平18(ワ)1944))。

 

そこで、受益者の立場からすれば、悪意とならないよう、特定の相続人の債務の有無等をわざわざ確認すべきでないとの見方もあり得るかもしれません。

 

もっとも、「受益者の悪意」が認められたとしても、相続人債権者からの強制執行等を回避するために、多額の債務を負う相続人への相続を避ける内容で遺産分割協議を成立させたというような事情ではなく、相続人の債務の有無とはかかわりなく、一定の理由から特定の人に承継させる内容の遺産分割協議を成立させたという場合は、遺産分割協議に仮託してなされた財産処分とは認められず、「特段の事情」の存在が否定されることになると考えられます。

 

(4) 本事例での対応

本事例のように、母が、①弟が無資力であることを認識し、なおかつ、②ことさら弟の債権者からの追及を免れる目的で遺産は全て自身に帰属させる内容の遺産分割協議を成立させたのであれば、本事例の遺産分割協議は詐害行為の対象になり得ます。

 

そこで、債権者から詐害行為取消請求訴訟を提起されるといった事態を避けるためには、そうした遺産分割協議の成立は避けて、以下「3. 相続放棄の申述を検討する」で詳述するとおり、弟の相続放棄を検討すべきです。

 

もっとも、本事例とは異なり、母の自宅不動産での居住を確保するために、相続人三人で協議して、遺産は全て母に帰属させる内容の遺産分割協議を成立させたというのであれば、社会通念上そのような協議はしばしば見られることから、上記「特段の事情」があるとはいえないこととなり、詐害行為取消権の行使が否定されると考えられます。

次ページ債権者が詐害行為取消訴訟を提起できる「期限」

※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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