債権者が詐害行為取消訴訟を提起できる「期限」
2. 詐害行為取消権の出訴期間を確認する
(1) 詐害行為取消権の出訴期間
債権者から詐害行為取消を主張された場合、詐害行為取消権の要件該当性について検討することはもちろんですが、詐害行為取消権の期間制限についても忘れずに検討しましょう。
すなわち、詐害行為取消請求訴訟は、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したとき(民426前段)、または、詐害行為の時から10年を経過したときは提起できないとされているからです(民426後段)。
この点、民法426条後段の10年の期間制限は、平成29年改正前の民法では20年とされていましたが、改正により10年に短縮されました(改正前民426後段)。
(2) 2年の出訴期間制限(民426前段)
そこで、遺産分割協議後しばらく経ってから債権者が詐害行為取消を主張してきた場合、民法426条1項前段の「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時」から2年を経過しているかどうかを検討することになります。
まず、2年の出訴期間の起算点となる「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時」とは、債権者が詐害の客観的事実を知っただけでなく、債務者に詐害の意思のあることを知った時であると理解されていますが、特段の事情のない限り、詐害の客観的事実を知った場合は、詐害意思をも知ったものと推認されるというのが判例の立場です(最判昭47・4・13判時669・63)。
例えば、詐害行為対象となる遺産分割協議により所有権の移転登記がなされた場合、当該登記の存在を債権者が知った時点で「詐害の客観的事実を知った」ことになり、同時に詐害意思も知ったものと推認されますので、当該時点をもって2年の出訴期間の起算点になると考えられます。
もっとも、所有権移転登記がなされた事実のみをもって債権者がその登記時から詐害の事実を知ったとは推認されませんが(大判昭7・3・22民集11・346)、債権者(特に金融機関や債権回収業者)は債務者の資力・財産について常に関心を有していることが通常ですから、詐害行為対象となる所有権の移転登記がいつなされて公となったかは、2年の出訴期間の起算点を検討する上で重要なポイントになります。
(3) 本事例での対応
遺産分割協議が令和2年4月1日以降である場合、平成29年改正民法が適用されることになります。
この場合、遺産分割協議から10年を経過しているとき、弟の債権者は詐害行為取消訴訟を提起できませんし(民426後段)、債権者が詐害行為を知って2年を経過したときも、詐害行為取消訴訟を提起することはできません(民426前段)。