弟に多額の借金→父の遺産を母親にすべて相続させようとしたら〈債権者〉が激怒! 弟に相続させない遺産分割協議は詐害行為になる?【弁護士が解説】

相川 泰男
弟に多額の借金→父の遺産を母親にすべて相続させようとしたら〈債権者〉が激怒! 弟に相続させない遺産分割協議は詐害行為になる?【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり、相続人は母・長男(相談者)・二男の3人で、相続財産は主に自宅不動産です。弟に多額の負債があるため、遺産をすべて母に相続させるという遺産分割協議書を作成したところ、債権者から「詐害行為」だと指摘されました。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「遺産分割協議に対する詐害行為取消の可否」について解説します。

相続後の「詐害行為取消訴訟」リスクに有効な対策

3. 相続放棄の申述を検討する

(1) 相続放棄に対する詐害行為取消の可否について

遺産分割協議が詐害行為取消の対象となる場合、債権者からの詐害行為取消請求訴訟を回避しつつ、多額の債務を有する相続人に遺産を承継させない方法があるでしょうか。

 

この点、相続人は、相続の効果を確定的に消滅させる相続放棄の申述をすることで(民938)、相続放棄者は初めから相続人とならなかったとみなされますから(民939)、事実上、相続放棄者の相続分に対応する遺産を他の相続人に移転させることが可能になります。

 

そして、判例は、相続放棄が身分行為であることを理由に、詐害行為取消の対象にはならないと判断しています(最判昭49・9・20民集28・6・1202)。

 

この昭和49年判決の理解によれば、本事例のように遺産分割協議によって「事実上の相続放棄」をするのではなく、相続放棄の申述で対応することにより、債権者側から詐害行為取消請求訴訟が提起されるリスクを可及的に減少させることができます(もっとも、相続放棄も詐害行為取消の対象とする見解も有力に主張されています。)。

 

(2) 本事例での対応

母や兄は、事前に弟の債務額、弟の財産状況(財産の有無、所有財産の評価額等)、債権者への返済状況および交渉状況等を十分に確認し、その調査・確認の結果、弟に相続させない内容での遺産分割協議を成立させた場合に弟の債権者を害する可能性があると考えられるときは、弟に相続放棄を検討させるべきです。

 

 

〈執筆〉
関一磨(弁護士)
平成29年 弁護士登録(東京弁護士会)

〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)

※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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