相続後の「詐害行為取消訴訟」リスクに有効な対策
3. 相続放棄の申述を検討する
(1) 相続放棄に対する詐害行為取消の可否について
遺産分割協議が詐害行為取消の対象となる場合、債権者からの詐害行為取消請求訴訟を回避しつつ、多額の債務を有する相続人に遺産を承継させない方法があるでしょうか。
この点、相続人は、相続の効果を確定的に消滅させる相続放棄の申述をすることで(民938)、相続放棄者は初めから相続人とならなかったとみなされますから(民939)、事実上、相続放棄者の相続分に対応する遺産を他の相続人に移転させることが可能になります。
そして、判例は、相続放棄が身分行為であることを理由に、詐害行為取消の対象にはならないと判断しています(最判昭49・9・20民集28・6・1202)。
この昭和49年判決の理解によれば、本事例のように遺産分割協議によって「事実上の相続放棄」をするのではなく、相続放棄の申述で対応することにより、債権者側から詐害行為取消請求訴訟が提起されるリスクを可及的に減少させることができます(もっとも、相続放棄も詐害行為取消の対象とする見解も有力に主張されています。)。
(2) 本事例での対応
母や兄は、事前に弟の債務額、弟の財産状況(財産の有無、所有財産の評価額等)、債権者への返済状況および交渉状況等を十分に確認し、その調査・確認の結果、弟に相続させない内容での遺産分割協議を成立させた場合に弟の債権者を害する可能性があると考えられるときは、弟に相続放棄を検討させるべきです。
〈執筆〉
関一磨(弁護士)
平成29年 弁護士登録(東京弁護士会)
〈編集〉
相川泰男(弁護士)
大畑敦子(弁護士)
横山宗祐(弁護士)
角田智美(弁護士)
山崎岳人(弁護士)