夫Bさんが「相続放棄」を決断したワケ
するとBさんはAさんに、次のように話します。
「実は母さんが亡くなったとき、四十九日の法要のあと、父さんから自分の遺産分割の話があったんだ。
俺は早くから実家を出てこっちで暮らしていたけど、兄さんと妹は母さんの介護で5年くらい大変だったみたいでさ。母さんのためのリフォームとかベッド買うとか、結構お金も出してたみたいだし※。
※ 主な介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)の平均値は、住宅改造や介護用ベッド購入など、一時的なものが74万円、月々の費用は8.3万円となっている。介護を行った場所別でみると、在宅の場合月4.8万円、施設の場合月12.2万円。また、介護を行った期間(現在介護を行っている方は、介護を始めてからの経過期間)は平均5年1ヵ月(61.1ヵ月)。そのうち約5割が、4年を超えて介護を行ったと回答している(<生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度>より)。
しかも父さんは、『都内の暮らしは大変だろう』って、俺たちの子どもにかなり援助してくれていただろ? 生まれたときとか、大学の授業料とか。
俺、その話を聞いて、兄さんたちは母さんの世話のためにお金使ってんのに、自分は出さずにもらってばっかりだなと思って。それに、相続資産がだいたい約10億円くらいあったから、相続税も大変だろうと思って。俺はその場で相続放棄するって決めたんだ」
Bさんから相続放棄の意思を聞いた父は、「なんにもいらないといってもな……」と考え込み、結局相続放棄は受け入れたうえで、「二束三文にもならないが、これを持って行ってくれ」と、父が社会人になって初めて買ったという手巻きの腕時計を形見として渡したそうです。もちろん動かず、資産には到底計上できません。
Bさんは続けて、
「お前だって結婚してこの30年間、なにかと理由をつけて実家にはまったくといっていいほど寄りつかなかっただろう。それに今回も、俺が仕事で忙しかったのが一番悪いけど、父の看病は全部兄貴と妹がやってくれた。だから、これでよかったと思ってる」
と話しました。
Bさんから一連の話を聞いて、Aさんは放心状態。しばらくのあいだ、なにも言うことができませんでした。
義父の遺産をあてにして、老後の準備を怠っていたAさん。不安でたまらなくなったAさんは、知り合いのツテを頼ってファイナンシャルプランナーである筆者に相談することにしました。