前回は、地方都市中心部の活気を取り戻す「住居併設」の商業用建物について説明しました。今回は、街の活性化を願う「地元小売業者」による土地の有効活用事例を見ていきます。

等価交換による共同事業に地主代理人として関わる

前回の続きです。街に活気を取り戻すには住居が不可欠―。こうした考え方の下、Hさんにもかねて、等価交換による共同事業に参画するなら、住居も大切だからこそ、住居を含んだ提案にすべき、と言い続けていました。

 

土地の有効活用という地主の立場はさておき、街の活性化を願う地元小売業者の立場に立てば、それが最低限必要ではないか、と訴えてきたのです。こうした考え方が、街の活性化に向け頭を悩ませてきたHさんにはしっくりきたのでしょう。街づくりの話を、2、3年にわたって交わした後、等価交換による共同事業に代理人の立場で関わってもらえないか、と依頼されました。

 

共同事業に参画するHさんにとってみれば、一緒に事業を進める大手デベロッパーは不動産・建設のプロです。共同事業のメリットを分け合うような場面では、プロにいいようにやられてしまい、利を逸する恐れもあります。代理人として任されたのは、等価交換による共同事業を持ち掛けてきた大手デベロッパーとの交渉です。

 

また共同事業主として、施工品質をチェックすることも求められるので、施工監理検査にも立ち会いました。こうして2007年に完成したのが、シティハウス富山西町という地上14階建ての分譲マンションです。1階は店舗と駐車場、2階は駐輪場とスノータイヤ置き場、3階以上に住宅96戸を配置しています。

画期的なプロジェクトとなった分譲マンション

代理人として交渉の末、Hさんはこのうち11戸の住居を、ご自身の権利分として取得することができました。地元地権者6人の中では最大の地主だったとはいえ、まずまずの成果だったと思います。

 

店舗に関しては通常、事業期間中は取り壊すことになるので、別の土地に仮設のものを用意し、建物が完成してから移転する、ということになります。ただHさんの場合、商売柄、店舗の内装を造り込む必要に迫られます。しかし、仮設店舗でそこまで投資するのは、なかなかはばかられます。

 

偶然、大通りに面した店を畳んだ商店主がいました。そこで、その土地および建物を手に入れ、店舗を移転してしまうことに決めました。仮設店舗を設けるのではなく、偶然確保できた土地に店舗そのものをそっくり移転してしまうことで対処したわけです。

 

この分譲マンションは、富山の目抜き通りに誕生した高層マンションとして地元で話題を呼びました。以降、中心部では、同規模の高層マンションが相次いで建設されています。「コンパクトシティ」を目指し、中心部への居住を後押ししている市にとっても、画期的なプロジェクトだったのではないでしょうか。

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地…。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのために必…

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