老後資金4,000万円の理想的な使い方
老後の準備をするうえで重要なのは、どの程度ならば支出をしても大丈夫か数字で見通しをつけておくことです。
現役時代に収入が高く、預金資産が豊富にあったとしても、お子さんへの援助など大きなお金を出す場面は多々あります。その際に、どの程度までお金を出してあげることができるか判断しなければなりません。
そういった場面で判断材料として活用するためにも、支出可能な金額がどの程度かを具体的な数字で算出しておく必要があるでしょう。
田中さんの事例を振り返ってみると、子供達2人に多額の住宅購入資金や結婚資金を援助したり、お孫さん可愛さに引っ越しをさせたくないからとローンを肩代わりしてあげたりしていました。
しかしながら、そもそも自分達の生活だけでも毎月赤字だったという状況に加えて、長女のローンを肩代わりして支払ってあげるというのは無理な判断であったといえるでしょう。
一生のスパンで収支を見える化し、資産が底を突いてしまわないように管理できていれば、このような無理な判断はしなかったかもしれません。
また、4,000万円も資産があったのですから、運用しながら取り崩していくことも考えることができました。
預金資産4,000万円のうち3,000万円を運用に回したという想定で計算してみると、どうでしょうか。仮に年利3%という安定的な利回りでも、しっかり運用できていれば、毎月10万円ずつ取り崩していって、100歳を超えても資産が残る計算になります。
重要なのは、老後について長期のスパンで計画を立て、家計管理を行い収支を見える化することでしょう。そのうえでお金を最大限有効に使えるように運用しながら、資産寿命を延ばすことを考えていれば、ある程度まで子供達の支援をしてあげつつ、自分たちが生活するためのお金も確保することができたのではないでしょうか。
実は4,000万円あっても足りなかった
田中さんは、現役のころに高収入で多くの退職金を受け取っていたにもかかわらず、リタイア後の生活費について具体的な計画が立てられていなかったことや、毎月の収支を見える化できていなかったために、家計の状況を冷静に把握できたころには老後破産寸前という状態に陥っていました。
老後の収支について早期に計画しておけば、資産寿命を延ばしたり、完全に退職せずとも無理のない範囲で働いて収入を得ていくことも可能でした。
2019年に発表し「老後2,000万円問題」の発端になった『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における金融サービスのあり方」』によると、高齢夫婦2人の平均的な支出は月額で約26万5,000円という結果が出ています。
それに対して夫が会社員、妻が専業主婦だった場合のモデルケースでの年金収入が約21万5,000円となっております、平均的なモデルケースで試算すると毎月約5万円が不足すると計算され、65歳から100歳近くまでのあいだに2,000万円近くが必要になるとされています。
田中さんの場合は公的年金を繰り上げて受給していたため、夫婦2人の受給額を合計しても17万円程度しかなく、上記の報告書のモデルケースを計算例にすると毎月10万円の不足×40年分で合計4,800万円が必要という計算になり、実は4,000万円あってもなにもしないと足りなかったということがわかるでしょう。
無計画のまま老後を過ごしていた場合、子供達にお金を援助してあげるどころか自分達の生活費さえ不足してしまうような状況だったのです。
このように、資産があり、決して贅沢をしているわけでもないのだから「老後には十分余裕がある」と思えても、しっかり計画を立てておかないと老後破産に陥る可能性は十分にあります。
反対に、しっかり家計を見える化し、運用の計画を立てておくことでそこまで資産が無くても、支出をコントロールしながら相応にゆとりを持った老後を送ることも可能です。
小川 洋平
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