(※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職前後はさまざまな社会保険からの手当があり、定年退職の時期などによって受け取れる金額が変わるものもあります。定年退職前には上手に制度を活用していきたいところですが、なかには知らないと年金の受け取り額に影響するものも……。本記事では、木村さん(仮名)の事例とともに定年退職前後の社会保障制度活用の注意点について、FPオフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

「基本手当」と「年金」を同時受給できない理由

仕事を辞めた方を対象として雇用保険から支給する失業手当は、正式には基本手当といいます。労働者が失業した場合の生活の安定等を図る制度で、就業の意思や能力がある方に対して行う所得補償を目的としています。

 

一方、老齢年金は年を重ねたことにより働くことが難しくなり、職業生活からの引退過程にある方への所得補償を目的として支給されるものです。それぞれの給付の目的が違っていることから、原則併給はできず、基本手当を受け取る場合は、特別支給の老齢厚生年金を含む老齢厚生年金の支給が停止されるようになっています。

 

老齢厚生年金は求職の申込みをした月の翌月から停止され、基本手当を受給しているあいだ続きます。そして、支給停止される期間が終了すると、約3ヵ月後にふたたび老齢厚生年金を受け取れるようになります。もし支給停止されている期間中に失業認定を受けず、基本手当を受けなかった月があれば、その月分の年金は約3ヵ月後に受け取れます。

 

なお、支給停止された老齢厚生年金の一部は、まったく受け取れないわけではありません。後日、支給停止される期間が終了すると「事後精算」というしくみにより、支給停止となっていた老齢厚生年金の一部を受け取れる可能性があります。

社会制度をどのように老後生活設計に活かしていくのか

定年退職は多くの方にとって大きな節目となるため社会保障制度等でさまざまな支援策が設けられています。

 

たとえば要件を満たした求職者の方に支給される基本手当は、原則7日間の待機期間と、自己都合の場合にはその後2ヵ月間の給付制限期間がありますが、定年退職による退職の場合は給付制限期間がなく待機期間を経てすぐに受け取れるようになっています。加えて手当を受給できるのは原則退職の翌日から1年間ですが、60歳以上の定年退職の場合は2ヵ月以内に手続きをすると受給できる期間を1年間延ばすことができます。

 

千代子さんの場合であれば、特別支給の老齢厚生年金がありましたから、この制度をもし活用していれば当面の収入は減るものの、状況が落ち着いてから求職活動をはじめて基本手当を受け取るという選択肢があったかもしれません。

 

定年退職後、再雇用などで引き続き働く際、60歳時点と比べて15%以上賃金が下がった場合には、雇用保険から賃金に上乗せして高年齢雇用継続給付が給付されます。なお、こちらも特別支給の老齢厚生年金を同時に受給する場合は、最大で賃金の6%相当の年金が止まります。

 

一方雇用保険からの失業給付は65歳を節目に名前と給付内容が変わります。65歳の誕生日の前々日までに退職する場合は基本手当の対象となりますが、65歳の誕生日の前日以降に退職する場合は高年齢求職者給付金の対象となり、給付日額の水準はあまり変わりません。しかし、給付日数は最大50日分に大きく減り、まとめて受け取るかたちに変更されます。

 

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