(※画像はイメージです/PIXTA)

相続対策としての不動産活用では、銀行からの融資も確約されており、あとは本人が決断するだけというところまできて二の足を踏むケースも少なくありません。メリットは十分に理解していても、多額のローンを背負うことに不安を感じる人も多いのでしょう。では、決断に踏み切るべきか否かは、どのように判断すればよいのでしょうか。ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏がわかりやすく解説します。

不安を解消するために

前述のとおり、悩みの原因は将来予測に対する不安である。そのためには、シミュレーションを実施することをお勧めしたい。

 

検証にあたって、賃貸住宅の建築を前提とし、満室の不動産収入を10百万円、建築費(諸経費込み)とそれに伴うローンを150百万円(借入期間35年)とする。

 

また、土地については、引き継いできた未利用地があり取得コストはゼロとする。単純に、満室賃料収入([図表2]内のA)を借入金額([図表2]内のB)で割った利回りは6.67%である。

 

[図表2]利回りの計算方法 出所:筆者作成

 

掛け目「70%」、すなわち経費を「30%」と考えている。また、本件では元利均等返済を前提としてシミュレーションを実施している。この場合では、掛け目70%(経費30%)、金利3.0%でキャッシュフローがおおむねゼロとなる。

 

[図表3]利息・調整後収入別キャッシュフロー表 出所:筆者作成

 

したがって、実際には掛け目80%(経費20%)、金利1.0%の固定金利で調達できるとなれば、かなり余裕をもった不動産賃貸経営ができる。逆に、当初から「経費30%、金利3%までは大丈夫」と目線を持っておくことで将来不安も解消できると思われる。

 

次に、家賃が減っていくのではないかとの不安についても検討をしたい。たしかに立地によっては家賃が上がっていくケースもあるが、本件の前提としては、家賃は徐々に下がっていくものであると考えて検証を行いたい。

 

検証にあたっては、ローン150百万円(借入期間30年)、不動産純収益(不動産収入から経費を控除)は8百万円からスタートし、徐々に下がり30年後に7百万円まで落ちると仮定。

 

[図表4]は「元利均等返済」におけるシミュレーションを実施しており、左図は金利1.0%で推移したケース、右図は10年ごとに1.0%→2.0%→3.0%と上昇したケースを示している。

 

金利1.0%で推移したケース(左)・金利1.0%→2.0%→3.0%と上昇したケース(右)
[図表4]元利均等返済におけるシミュレーション 金利1.0%で推移したケース(左)・金利1.0%→2.0%→3.0%と上昇したケース(右)
出所:筆者作成

 

当たり前ではあるが不動産収支が下落している状況で金利が上昇するとキャッシュフローは逼迫する。ただし、このケースでは31年目にはローン完済されるため、実際にはまた余裕が生まれてくる。

 

「元金均等返済」についても同様の条件で検討する。ここでも左図は金利1.0%で推移したケース、右図は10年ごとに1.0%→2.0%→3.0%と上昇したケースを示している。

 

金利1.0%で推移したケース(左)・金利1.0%→2.0%→3.0%と上昇したケース(右)
[図表5]元金均等返済におけるシミュレーション 金利1.0%で推移したケース(左)・金利1.0%→2.0%→3.0%と上昇したケース(右)
出所:筆者作成

 

不動産純収益の減少に伴って、ローン返済額も減少していくことから、安定的な経営がなされている。金利上昇局面でも上昇時のみ純収益は悪化するが、また徐々に余裕が生まれる。

 

徐々に新卒時から年収が上がっていく人間と異なり不動産は「若いとき(建築直後)が最も稼げる」との内容を書いた。

 

そのような不動産特性からも「元金均等」を選択するということで将来不安の解消に役立つ可能性がある。返済方法の如何によって、当初のローン返済は重いが、後々の金利上昇や賃料減少にも備えやすくなる。

 

「元利均等」「元金均等」のそれぞれの長所を取り込むためにも、ローン金額が大きい場合にはミックスして調達することを検討することも1つである。また、金利上昇時においては一部繰り上げ返済しキャッシュフローに余裕を持たせることも戦略の1つである。

 

このように、不安については可視化することで解消可能であり、賃料下落リスクについてもローン返済方法によって解消することが可能である。具体的な数字を把握していくことで決断の後押しになるのではなかろうか。

 

 

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