非課税枠を利用して、孫に年110万円ずつ贈与した祖父
平成22(2010)年9月11日、梶原家に長男・一馬君(仮名)が生まれました。梶原直樹さん(当時43歳・仮名)と妻・絵麻さん(当時40歳・仮名)、祖父母の3世代のにぎやかな家族になりました。絵麻さんも結婚5年での子宝に恵まれて大喜びです。
賃貸不動産業で長く株式会社太平を営む祖父・一之助さん(当時78歳・仮名)は、祖母・晴子さん(当時78歳・仮名)と相談して、実の娘である絵麻さんの出産記念に一馬君名義の銀行預金通帳をつくり、贈与税の非課税枠を使って年110万円ずつを贈与することにし、娘の絵麻さんに入金済みの通帳を「おめでとう」と言って渡しました。
株式会社太平には顧問税理士がおり、社長の一之助さんの個人所得や相続戦略についても関与していましたので、一之助さんは手続きや実務処理を顧問税理士に任せていました。
平成25(2013)年3月期決算が済んだころ、株式会社太平に約7年に一度の定期的な法人税の税務調査が入りました。
そのとき、税務調査官が会社から一馬君宛の110万円が4回、銀行振込されていることに注目し、税務調査の立ち会いをしていた税理士に質問しました。税理士は、一馬君の母親・絵麻さんを親権者とした毎年の贈与契約書を見せました。また経理内容としては、会社オーナー兼社長の一之助さんは多額の資金を会社に貸し付けていました。そのなかから一馬君への贈与として、会社から一之助さんへの資金返済の経理処理をしていました。
書類が揃っていれば税務調査を恐れる必要はない
税務調査官は、それでも「実態調査」と称して、一之助さんの娘で一馬君の母親である絵麻さんに事情聴取をしたいと言うので、税理士が同伴して応じることになりました。
絵麻さんは専業主婦であり、税関係にも明るくなかったため、税務調査と聞いてオロオロしていました。税務調査官からの「通帳は誰が保管していますか?」という質問にも、絵麻さんは頭が真っ白になって、口ごもってしまいました。
そこですかさず税理士が助け舟を出しました。「調査官、実印で贈与契約書があり、そこに『保管者は梶原絵麻』と書いてあるではありませんか。実印ですよ。少なくとも『それに相違ありませんか?』と聞くべきなのでは? 相手は主婦ですし、急に財務の話を持ち掛けられたら、困るものですよ」と割って間に入りました。
税務調査官は「当然のことを尋ねただけなのに」と内心、税理士の調査妨害を感じましたが、税理士の言うとおり「預金通帳は絵麻さんが、一馬君の親権者として保管していることに間違いありませんか?」と聞き直しました。絵麻さんは税理士がサポートに入ってくれたことに安心して、すぐに「はい」と答えました。直後に税理士は「絵麻さんへの尋問はそれでよろしいですね」と税務調査官に申し出て、絵麻さんを税務調査の場から解放しました。その後も、税務調査官は本件贈与について何も言及しませんでした。問題がなかったためです。
きちんとした書類がすべて整備されていれば、本人の説明が多少下手でも特に問題はありませんでした。
<事例のポイント・注意点>
祖父から孫への生前の非課税贈与は、祖父から子への遺産相続と異なります。つまり、生前贈与で一世代を飛ばした「相続税の節税対策」の一つです。
富裕層の方にも、この「生前の非課税贈与」は重要な生前の遺産管理の一つです。