現金の「所在地」が日本であれば贈与税の対象に
<贈与税の納税義務者の範囲>
受贈者が、財産を贈与されたときに「国内に住所あり」の場合、その課税関係は、贈与者の国籍を問わず、受贈者は「㋑居住無制限納税義務者」として、所在地を問わずすべての贈与財産に日本の贈与税制が適用になります。
「㋺非居住制限納税義務者」「㋩制限納税義務者」は贈与者・受贈者が各々どこに住んでいるか、贈与財産がどの国内にあるかどうかにより、課税の有無が決まります。
各納税義務者の住所地の区分と、贈与税課税の有無は次のとおりです。
また、海外送金の贈与の場合、贈与者・受贈者の要件によって次のとおり贈与税の課税は取り扱われます(図表)。
【図表 贈与税の納税義務者の範囲】
※国際戦略領域とは、「生前贈与」による日本国内にある財産の国際相続対策が、実践的に可能な領域を指しています。上記の表から考えて、この枠内(領域)しか適法になる可能性のある相続対策の領域はありません。
<国内外の贈与税の課税区分>
㋑居住無制限納税義務者
贈与による財産取得時に次の贈与者から、贈与を受けた次の受贈者は、日本国内・国外の財産を問わず、贈与税が課税されます。ただし、受贈者の住所が日本国内にあっても日本国籍がない場合は、贈与者の住所が国内にあるかどうかを問わず、贈与財産はすべて課税対象となります。つまり、国際贈与としては対策なしといえます。
・贈与者:
国籍を問わず、国内に住所がある者
・受贈者:
日本国籍があり、日本国内に住所がある者
㋺非居住無制限納税義務者
次の贈与者から、贈与を受けた次の受贈者は、日本国内・国外の財産を問わず、贈与税が課税されます。前回お話しした松波さん親子の事例はこれに該当します。
・贈与者:
国籍は問わず、今、日本に住所がなくても、過去5年以内に住所がある者または5年超の間、国内に住所がない者
・受贈者:
日本国籍があり、5年を超えて国内に住所がない者または5年以内に国内に住所がある者
㋩制限納税義務者
次の贈与者から、贈与を受けた次の受贈者の場合、国内財産の贈与を受けた場合のみ、贈与税が課税されます。
・贈与者:
国籍を問わず、5年を超えて国内に住所がない者
・受贈者:
日本国籍があり、5年を超えて日本に住所がない者または日本国籍がなく、国内に住所がない者
つまり、現金については、民法上動産と解されるので、その現金の所在地で判断されます。送金した場合は、贈与契約の履行として送金手続きが取られたと解され、日本国内の財産が贈与されたことになります。
財産の所在が国外でも、贈与税が課税される場合がある
前回、松波昭五郎さん(当年56歳・仮名)がアルゼンチンに住む長男・藤五郎さんへの送金を「非課税贈与の特例」を活用して行ったことを見てきました。
当該事例について、父・昭五郎さんは今は外国に住所があっても、過去5年以内には、日本国内に住所があり、長男・藤五郎さんは日本国籍があるため、この場合藤五郎さんは「㋺非居住者無制限納税義務者」となり、財産の所在が日本国内・国外かを問わず、贈与を受けた場合は贈与税が課税されます。
もし、受贈者・藤五郎さんに日本国籍がなく、国内に住所がなければ、贈与者・昭五郎さんが藤五郎さんに国外財産を贈与した場合には、贈与税は課税されませんが、国内財産を贈与した場合は課税されます。
<国際租税回避戦略>
この話は、富裕層の相続税戦略なので、一般の方には単なる面白い話にすぎません。
図表で「※国際戦略領域」と記した領域に限って「㋩制限納税義務者」は、表に示した規制を外せば、たとえ「大型節税」であっても戦略設定が可能です。
ポイントは住所です。贈与者・受贈者双方の住所地、家族の居所、職業の実態、資産の所在地などを総合判断します。安直な「でき心」ではとてもむずかしいです。
平成29年からは、OECD(経済協力開発機構)も絡んで世界的な租税回避行為がチェックされます。つまり、非居住者の金融機関(銀行・証券・保険)を通じ、すべての金融口座情報の国際的な相互自動通報が始まります。日本では5000万円超の国外財産に対しては、「国外財産調書制度」もすでに平成26年から始まっています。
租税回避はコストが掛かる行為になり、勝敗は別ですが訴訟リスクも高いです。あなたにその覚悟はありますか?
<事例のポイント・注意点>
贈与者の国籍を問わず、受贈者の住所が国内にあれば、贈与された財産の国内外を問わず、贈与税が課されます(図表㋑)。受贈者および贈与者の住所が国内にない場合、贈与時に「国内に住所なし」であれば、国外財産については、贈与税は課税されません(図表㋩)。