「血縁」のない妻の連れ子への連年非課税贈与
平成27(2015)年1月、個人経営のレストラン「樹海の豚肉丼」を運営する北畠邦人さん(当年68歳・仮名)は、後妻の好子さん(当年40歳・仮名)の連れ子である友之進君(当年4歳・仮名)に当初戸惑っていました。好子さんとは夫婦関係にあるものの、子どもとは何の関係もないと考えていたからです。
しかし邦人さんは、事業承継の適齢期である68歳。顧問税理士からも「後継者選び」を強く促されていました。税理士から次の四つの事業承継の方法を指導されました。
(1)相続(血縁へ相続する)
(2)MBO(従業員へ事業を売る)
(3)M&A(他人へ事業を売る)
(4)廃業(店をたたむ)
邦人さんは、「血縁」にこだわっていましたが、子どもがいないうえ、事業承継のタイムリミットも迫っています。そこでこの際、妻の好子さんに店を継がせようと考えました。将来は順調に行けば、妙子さんの連れ子の友之進君が、母の後を継ぎ、邦人さんも含めて家族で店を経営していけます。そこで邦人さんは考えを変えました。
将来は邦人さんは友之進君を養子にすることも視野に入れ、顧問税理士の助言を受けながら、「連年110万円」の非課税贈与をやろうと決めました。月10万円弱であれば、邦人さんにとってそれほど負担にはならず、またお互いの関係を深めるすべにもなるのではないかと考えたのです。顧問税理士がついていたので、その事務手続きに抜かりがなかったのは言うまでもありません。その手順は次のようにしました。
(1)親権者の妙子さんに、友之進君の銀行口座をつくらせる。
(2)邦人さんは、クリスマス時期に、110万円を友之進君の口座に振り込む。
(3)翌年正月早々に、店の休暇を利用して、友之進君、親権者の妙子さん、それに邦人さんの3人で、友之進君の過去1年の出来事のなかから、素晴らしかった思い出を相談して選び、「友之進君、今年の思い出ベストワン」として記録することにした。
記録は「アルバム」を使い、そのなかに「1年間の思い出の写真」を貼り、皆でコメントを書き込みます。また「贈与契約書」もそのアルバムに織り込むことにしました。
もちろん、贈与契約は、贈与者・邦人さん、受贈者・友之進君、その親権者・好子さんが、それぞれの立場で署名押印することにしました。また贈与のイベントとして毎回、贈与目録を渡している写真も撮ってアルバムに貼ります。
血縁がない者への贈与は「証明する証拠」が特に不可欠
友之進君のように未成年者との贈与契約は、親権者が同席して署名押印します。事実認定が大切ですので、4歳の友之助君にも署名押印させます。法的には「親権者が代理する」となっているため、友之進君は記名押印でもよいです。
この事例の場合の贈与日は、110万円を振り込んだ「前年のクリスマス時期」となります。万が一、その年分(1月から12月)に友之進君が、邦人さんから110万円以外に、贈与を受けていたとすると、その金額は合算して贈与税の申告をすることになりますので、注意が必要です。
また邦人さんが、友之進君を養子縁組した場合は、養子の親権者が邦人さんになります。親が未成年の子(養子)に贈与する場合は、利益相反がないので、法的には書面がなくても、子(養子)の意思にかかわらず、贈与契約は成り立ちます。
もっとも本件のように、「贈与契約」の事態装備が問題になるときは、物理的に証明できる証拠が不可欠です。