娘が22歳になるまで毎年非課税贈与を行った事例
平成5(1993)年3月3日、桃の節句を祝って、父・長谷川翔太さん(当時28歳・仮名)は、妻・エリカさん(当時25歳・仮名)と相談して、同年1月3日に誕生した娘・ハヤカちゃん(仮名)に毎年110万円を非課税贈与(1993〜2000年の間は非課税贈与枠が年60万円なので60万円を贈与)して、成長を祝う食事会をすることにしました。ハヤカちゃんの親権者はお母さんのエリカさんです。
翔太さんは友人の勧めで、この連年贈与の証拠として子どもが大きくなるまで二十数年も要する期間の証拠保全のために、毎年公正証書を作成して公証人に認証してもらい、その翌年の春に、贈与税のゼロ申告をしてその控を保存することにしました。
やがて翔太さんも50歳に、ハヤカさんは22歳に。平成25(2013)年3月、無事大学を卒業した彼女はその年も翔太さんから卒業祝いとして110万円の贈与を受け、同じように公正証書をつくり、ゼロ申告をして、控を保存しました。これまでの間で預金通帳には元本だけで1910万円が貯まっていました(60万円×8年=480万円、110万円×13年=1430万円の合計金額)。
親子間での贈与でも税務署は「公的な証拠」を求める
平成26年5月、ハヤカさんはそのお金で投資不動産の物件を買いました。税務上は、すぐに「お尋ね書」が届くはずです。そこには「お金はどのように調達したか」といった質問事項が記載されています。そのとき合理的な説明ができないと、税務署からは「マネーロンダリング」をはじめ、お金の出所についていろいろと追及されることになります。
たとえば、ハヤカさんがインターネット通販のビジネスをやっている場合は、「売上の計上漏れ」なども疑われることになります。どうしても出所が分からないと、税務署は最後には「ハヤカさんが直系尊属(父母・祖父母)以外の誰かから、平成26年5月に約1910万円の一括贈与を受けた」として、とりあえず本税50パーセントの贈与税を課すことになる可能性が高いです。そしてさらに「犯罪性」について、長きにわたって追及の対象となります。
しかしハヤカさんは、公正証書(贈与契約書)と、贈与税ゼロの申告書控を毎年保管しています。さらに、父・翔太さんと母・エリカさんが娘への毎年の贈与について「日記」に書いていました。そのため、本件について税務署から追及されることはありませんでした。
<事例のポイント・注意点>
この事例のように、誕生のお祝いとして贈与を始めるケースがよくあります。「赤ん坊に贈与なんて、親の勝手でどうにでもなるだろう」といぶかしく感じましたか?
はい、そのとおりです。日本は法治国家。ささいな贈与も、税務署などから突かれれば、最悪の場合は裁判になります。裁判所では贈与という行為は「相続税法」に係る法律行為というわけです。
赤ん坊には「親権者(通常は親)」がいます。親権者のいない「未成年の障害者」には「未成年後見人」がいます。その手続きを踏むのが「適法」。ですから、平穏に暮らすためには、そのような法的手続きは、漏らさず行いましょう。