贈与する側の住所が日本なら、日本の贈与税制の対象
松波昭五郎さん(当年56歳・仮名)は、長く黒字経営が続く乾物問屋の株式会社アメリケンを営んでいます。長男・藤五郎さん(当年31歳・仮名)は、平成27(2015)年1月、国籍は日本に残しましたが、現地人の女性と結婚して、アルゼンチンに移住しました。昭五郎さんは、藤五郎さんへの思いが断ち切れません。
親の愛情をどうにか伝えたいと昭五郎さんは悩み、税理士に相談したところ、「継続的に愛が届く、年110万円の連年非課税贈与はどうですか?」と助言を受けました。
昭五郎さんが国内に住所がある場合、藤五郎さんへの贈与は、財産が国内外のどこにあるかを問わず、さらに藤五郎さんの住所・国籍を問わず、すべて日本国の贈与税の対象になります。国内の財産については、たとえ昭五郎さんが、外国に住んでいても、日本の贈与税制の対象というわけです。
ただ、国外財産については、親子ともに、5年を超えて、国外に住所がない場合、贈与税の対象として埒外に外れます。例えば内国法人を、外国法人にできれば、どうでしょうか?
その法人は外国法人となり、その法人の財産は国外財産として認識されます。さらに、その法人の株主が、日本に5年を超えて住所がない昭五郎さんの株式だとすれば、その株式は、日本の贈与税の埒外(らちがい)に置かれます。この点は、日本国の贈与税の「盲点」として、今後ひょっとして、5年超の期間を掛けた大型節税が起りうる唯一の節税領域だといえます。
庶民には、溜息が出そうな話です。本連載は庶民の方を想定していますので、このような超富裕層の方の話は、ただの息抜き話としていただければと思います。
非課税贈与の特例は贈られる側が海外在住でも適用可能
連年非課税贈与では、藤五郎さんには日本国籍があり、昭五郎さんは、国内の財産(資金)を贈与するので、日本国内で生活していなければならないという縛りはありません。藤五郎さんについては、贈与税の課税対象になるのは日本国内の財産です。その意味で、日本の贈与税の納税義務者であるため、非課税贈与の特例は適用されます。
昭五郎さんは毎年、贈与税の非課税枠いっぱいの年110万円を藤五郎さんに送ろうと考えました。早速、110万円を送金するよう税理士に手続きを指示しました。すると、「ちょっと待ってください」と税理士が言いました。
「一度に100万円以上を送ると、税務署に記録されるんですよ。税務署に把握されてもまったく問題はないのですが、『100万円以上は情報を捕捉して後々の調査資料にする』と税務署が言っているのですから、税務の常識論として、それを避けたほうが無難ではないですか?」と税理士は昭五郎さんに忠告しました。そして50万円ずつを2度に分けて送金する方法を提案しました。
次回に続きます。