安易な移籍の結果、思ったようなパフォーマンスにつながらないケースも
そうなると判断ミスも起きやすくなります。最も多いのは、「安易な移籍」をしてしまうことです。直近の経験や過去の職歴が、競合他社である程度スライドして生かせるため、誘う側も誘われる側も、イメージがつきやすいのかもしれません。
「今の会社でやりたいことをやりきった」というのであれば、移籍も気持ちよくできるでしょう。しかし突然の不祥事が原因の場合、緊急避難的に同業他社に脱出する例を非常に多く見てきました。なぜなら、企業側は業績向上や抱えている問題を手っ取り早く解決できる人材を求めているからです。
しかし、これは本来の移籍と意味合いが少々違います。移籍する側も、自分のキャリアが同業なら生かせるであろうという前提で行動してしまいます。こういった競合他社の引き抜きや移籍はドラマチックになり過ぎてしまい、双方が冷静さを失いやすくなります。つまり、同業他社は「引き抜くこと」が目的になり、移籍希望者は「脱出する」のが目的になりがちなのです。その結果、中長期的かつ冷静な判断でのマッチングがどこかに行ってしまう、ということが多いようです。
業界を騒がせるような不祥事の場合は、慌てるがあまり動きが加速します。しかし、しばらくすれば動揺していた業界も自浄作用で冷静さを取り戻すことでしょう。その時になると、即戦力になると思っていた人材が、企業文化や環境の違いのせいか前職同様のパフォーマンスが出せていないということがあります。特に日本企業には、根深く特徴的な人間関係などがありますから、行った先ですぐお荷物になってしまうことさえあります。これは、どちらが悪いということではありませんが、双方の不幸になっています。
単に「移籍することだけ」を目的にしないことが大切
競合他社に身を寄せるようなヘッドハンティングの動きが過熱していたとしても、1年後に状況が好転することはよくあります。ですから移籍することだけを目的にして行動するのは避けましょう。競合他社への移籍は、今の経験を活かして飛躍できるチャンスがある一方で、多くのリスクも内在していることを忘れないようにしてください。
なお、競合他社から人材を引き抜く行為や、該当する企業の管理職15~20%の人材に勧誘を目的として声を掛けるという行為で、裁判所から「営業妨害行為」の認定を受けた判例があります。これは法解釈から見るというよりは、業界や企業に自浄作用を求めるものだったかもしれません。たしかに、管理職の1割以上に声を掛けるというのは過剰な接触で、「引き抜きすぎ?」と考えるべきであろうと思います。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長