「ふり」をしても他人からはわからない
周りをだますのは難しいと思うかもしれないが、実はそんなことはまったくない……。
この「ふりをする」ことに関しては、たくさんの心理学の実験が行われてきた。人はどれだけうまく他人をだますことができるのか、そしてどれだけ正確に他人の噓を見抜くことができるのかという実験だ。
たとえばよくある実験では、15人の人がそれぞれ違う発言をして(噓の場合もあれば、本当の場合もある)、40人の人にそれが噓かどうか判定してもらう。発言の平均的な長さは50秒だ。すべての発言は撮影され、40人すべての判定人に見せられる。
チャールズ・ボンド・ジュニア博士とベッラ・デパウロ博士は、数十年にわたるこの分野の研究を見直し、その結果をまとめている。対象になった研究は200例で、参加者は2万5,000人近くになる。
それで、結果はどうだったか。相手の話が本当だと当てる確率はわずか53%で、噓だと当てる確率はわずか47%だった。
つまり、本当だと当てる確率は、五分五分の当てずっぽうよりもわずか3ポイント高いだけで、噓を見抜く確率のほうは当てずっぽうよりもさらに3ポイント低くなってしまう。これでは、コインを投げて決めるのと大差はない。つまり、噓はめったにバレないということだ。
この結果を見ても、「バレなかったのは噓をつくのがうまい人たちだけだ」と思うかもしれない。たとえば、75%の確率で噓がバレる人もいれば(噓をつくのがヘタな人たち)、25%の確率でバレる人もいる(噓をつくのがうまい人たち)、ということだ。両者の結果が相殺され、結果としておよそ50%という数字になる。
しかし、その推論は間違っている。どんな人でも、他人を完璧にだます能力を持っている。これは科学的にも証明されている事実であり、噓がときには有益なものとして社会的に認められているのもそのためだ。
人は日常的に噓をついている?
調査を行ったボンドとデパウロも指摘しているように、人は日常的に噓をついている。人を喜ばせるために噓をつき、自分の体面を守るために噓をつく。人が噓をつくのは、たいてい自分の評判を守るためだ。「噓を知らせるサインはとてもわかりにくく、社会的にも、相手の言うことを額面通りに受け取るのが正しい態度だとされている」と、両博士は言っている。
表向きは、噓はいけないということになっているが、誰もが噓をつく訓練を受けている。トロント大学エリック・ジャックマン博士子供研究所所長のカン・リー博士は、子供の噓を大きく3つに分類している。
(1)の噓では、人を傷つけないために「きみ、かわいいね」「このケーキおいしいよ」と言ったりする。
(2)は、「僕がやったんじゃないよ」「それをやらなきゃならないなんて知らなかった」などという噓だ。
そして(3)は、「僕はいい子だ」「私は絶対に噓をつかない」などがある。
そして大人になっても、私たちはこの3種類の噓をつき続ける。(1)と(2)は、社会生活を円滑に送るために、誰もが身につける噓だ。さらには、噓をつくことには進化上の理由もある。私たちの祖先は、わざと攻撃的にふるまうことによって、襲ってくる敵や肉食動物から身を守ってきた。逃げるという選択肢がない状況では、この方法が特に役に立つ。
以上のことを総合すると、能力の高い人ほど、必要なときにはうまく噓をつけるということだ。そもそも、彼らが成功できた理由の一部は、自分をだますのでなく、他人をうまくだましてきたからかもしれない。
とはいえ、かの偉大なるエイブラハム・リンカーンは、こんな有名な言葉を残しているー「一個人を永遠にだまし続けることは可能かもしれないし、すべての人を一時期だけだますことも可能かもしれないが、すべての人を永遠にだまし続けることは不可能だ」。
つまり、ただ「ふりをする」技術だけを磨くのではなく、本物の実力を身につけるための努力も必要だということだ。
トマス・チャモロ=プリミュージク
社会心理学者/大学教授
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授/コロンビア大学教授
マンパワーグループのチーフ・
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