「旅館業法の特例区域」内では民泊ビジネスが可能に
日本でも、訪日外国人急増に伴うホテル不足の対策として、政府が定めた国家戦略特別区域において、「民泊」をビジネスとして公認しようという動きが出てきています。この「国家戦略特別区域」というのは、日本経済再生本部からの提案を受け、第2次安倍内閣が成長戦略の柱の一つとして掲げているもので、具体的には、東京圏、関西圏、沖縄県のほかに、いくつかの自治体が指定を受けています。
2014年5月1日には、厚生労働省が「国家戦略特別区域法における旅館業法の特例の施行について」と題する通知を公表しました。通知の内容を簡単に説明すると、国が旅館業法の特例区域に指定すれば、その地域内では、訪日外国人向けに宿泊施設を提供するにあたって、旅館業法は適用されないということです。その区域が属する都道府県が定めた基準を満たしていれば、「民泊」を業として行うことが可能になります。
【図表】国家戦略特別区域における旅館業法の特例のポイント
この特例の適用を最初に受けることになったのが、羽田空港を抱える東京都大田区です。2015年10月、国家戦略特区会議は、東京都大田区内で「民泊」営業を認めました。この決定を受け、大田区は2015年11月に関係条例案を区議会に提出することになりました。問題なく可決されれば、2016年1月から大田区内で「民泊」営業が可能になります。
この動きを受けて、国家戦略特別区域に指定されている自治体では、同様に民泊を認める動きが加速すると予想されます。民泊が正式な事業として認められることにより、Airbnbのようなサービスについても認知度が高まると期待されます。
各自治体が「民泊」営業に関する要件を定義
大田区のように、国が旅館業法の特例区域に指定すると、その区域内では、フロントの設置や寝室の面積など旅館業法が求める基準を満たしていなくても、「民泊」を開業できるようになります。ただし、区域内であれば勝手に営業をできるというわけではありません。事前に区に届け出を出して、審査を受けることになります。国家戦略特区会議が定めたガイドラインに沿って、各自治体が「民泊」営業を認める要件を条例で細かく定めることになりますが、この条例の細目は各自治体に委ねられますので、同じ「特例区域」であっても、自治体によって求められる要件は異なる可能性もあります。
たとえば、大田区の場合は、提供する部屋や家屋が建築基準法第48条で「ホテル・旅館」の建築が可能な用途地域に所在することが条件となるほか、宿泊は6泊7日以上の場合に限られることや、営業を開始するにあたって、事前に近隣住民に事業内容を説明することが義務づけられる見込みです。
宿泊が6泊7日以上に限られるのは、ホテルや旅館の経営を圧迫しないように前述のガイドラインで「7日〜10日以上の期間を使用させること」を条件に掲げているためです。つまり、大田区に限らず、国家戦略特別区域における旅館業法の特例に基づいて民泊を営業する場合、2泊や3泊など短い宿泊を希望する旅行者を受け入れることはできないとみていいでしょう。
現時点では、自治体によってかなり温度差があるのも事実です。たとえば、国家戦略特別区域に含まれている京都市では、2015年11月にマンションの部屋を中国人旅行者向けに貸し出していた旅行会社の関係者を摘発したほか、民泊の実態把握が先決として、2015年度内に京都市内で実態調査を行うと表明しています。しかし、今後は大田区の実績を見て、民泊に前向きな自治体が増えてくるものと予想されます。