相続税を節約したい…“なかったこと”にした「海外資産」
Aさん(51歳)は、都内の会社員です。社内では総務部の課長代理を務めています。
2年前、父が亡くなったため、Aさんは実家に帰省し、母親・姉・弟と4人で遺産分割協議を行いました。
Aさんの父親は現役時代商社に勤めており、若いときから海外赴任の機会が多くありました。Aさんが小さいころは家族全員で滞在していましたが、学校に通い始めるようになると、「子どもたちは日本の学校に通わせたい」と父親単身で海外に行くように。
このため、海外に口座を持つ機会も多かったようです。相続財産目録を作成する段になって、父の遺産は実家と預金8,000万円のほか、スイスの銀行に日本円で約5,000万円ほどの預金が遺されているのがわかりました。父親は亡くなる直前、母親にメモを渡していたようです。
相続税申告を行うにあたって、この「スイスの預金」が問題になりました。Aさんは、こうした外貨預金にも相続税がかかることを知っていたものの、相続税はなるべくかからないに越したことはありません。
母親と姉は「あとでバレたりすると大変だろうから、正直に申告したほうがいい」といい、Aさんと弟は「海外にある預金だからそうそうバレないだろう。わざわざ申告する必要はないと思うし、バレたらバレたでそのときに言えばいいよ」と対立。
最終的には、長男であるAさんに意見が一任され、このスイスの預金は含めないことに。Aさんは、実家と国内資産のみで申告書を作成し、提出しました。
忘れたころに来た「税務調査」
それから1年が経ち、相続税の申告についてすっかり忘れかけたころ、Aさんの携帯に税務署から「税務調査に伺いたいのですが」と連絡がありました。
「まさか、あのスイスの預金がバレたのか……?」内心不安なまま、Aさんは母親と調査に立ち会うことに。
税務調査当日。調査官は、Aさんが思っていたより穏やかで、雑談を挟みながら進行します。まずはAさんが申告を行った実家の土地建物や国内預金等について聞かれ、Aさんも正直に返答。なごやかな雰囲気のまま、このまま無事に終了するのかと思ったところ、調査官は次のように言いました。
調査官「お父さまの財産はこちらですべてでしょうか?」
Aさん「え、ええ……。私が把握している分は、これですべてです」
調査官「そうですか。では、スイスにある口座は誰のものでしょう? お父さんのものだと思いますが、違うのですか?」
Aさん「……」
調査官「財産を意図的に仮装・隠ぺいしているとなると、悪質ですので『重加算税』の対象となります」
Aさん「そんな……」
結局、父の外貨預金(日本円で約5,000万円)については「資産隠し」とみなされ、重加算税や延滞税などを含めAさんは3,000万円ほどの追徴税額を支払うはめになりました。「こんなに払うことになるなんて……」Aさんは後悔してもしきれません。
税務調査が終わり、調査官が帰ると、青ざめた母は「だから素直に申告しようと言ったのに!」と号泣。すぐにきょうだいの耳にも入り、泥沼の相続トラブルに発展していくこととなったのでした……。
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