(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人が憧れるタワマンへの居住。一定以上の収入を持つ「勝ち組」しか暮らせないのは事実ですが、そんな勝ち組も、このところの家賃高騰に頭を痛めているという現実があります。ここでは、賃貸住宅の典型的なトラブルである、「賃料値上げ問題」について見ていきます。不動産問題を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

賃料値上げトラブル、タワマン等の高額賃貸物件で頻発中

コロナ禍以降、タワマンをはじめとするマンションの分譲価格が大幅に上昇し、それに伴って賃料も非常に高額になっています。

 

数年前に貸し出された建物賃料も、現在の状況から「賃料が安すぎる」として、都心の高額賃貸物件を中心に、賃料値上げトラブルが増加しています。

 

今回、筆者のところに相談に訪れたAさんは、大手企業に勤務するエリートサラリーマンです。妻も大手企業に勤務する、世帯収入2,000万円超のいわゆるパワーカップルで、人気エリアのタワマンに入居しています。しかし、入居から4年の間に、オーナーは毎年家賃を改定し、今年の4月からはいよいよ5万円アップするということで、頭を抱えているといいます。

 

「入居してから毎年家賃が改定され、これまでは都度更新に応じていましたが、いよいよ今年5万円上がるといわれまして、ちょっとどうなのかなと…」

 

「話し合いをするにしても、うちは夫婦とも仕事が多忙で、暇をもて余している大家に対応する時間もエネルギーもないのです。引っ越すヒマもありませんし、なんとかして大家に折れてもらう方法はないのでしょうか?」

 

今回の記事では、実際に賃料増額が生じた場合「法的にはどのような解決方法があるのか」「実際にどのような落としどころが考えられるのか」の2方面から、解決策を探ってみたいと思います。

法的には賃料値上げのハードルは高いが…

まず、賃料の増額ないし減額については、おおむね以下のような条項が挿入されている契約書が多くなっています。

 

土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき、賃料の増額ないし減額を請求することができる。

 

基本的に想定されているのは「長年同じ建物に住んでいて、物価のインフレなどに伴い賃料が安すぎることになった」あるいは「何らかの経済変動によって、賃料が租税などと比較して不相当になった」ときの修正が予定されています。

 

ただし、この条項を利用して、賃料の値上げ、ないし値下げを要求する際には、要求する側が、賃料が不相当であることを立証する必要があります。

 

また、法的な手続きとしては「賃料等調停」という話し合いベースの裁判所での手続きを経て、まとまらなければ、「賃料増額(減額)請求訴訟」を提起しなければならない、という2段構えの手続になっています。とくに、裁判になった際には、賃料についての不動産鑑定士の鑑定書も必要になることが多いでしょう。

 

現場では、賃料増額を巡る法律相談数は多いのですが、このように、手続きの負担やコストが非常に重いため、基本的には裁判所を利用せず、当事者同士の話し合いで決着することが多くなっています。

 

実際に裁判まで発展するケースは、賃料数百万円に及ぶような商業テナントのトラブルというのが、筆者のイメージです。

裁判は負担が大きすぎ…「話し合い」が現実的な解決策に

さて、このような法的手続があるとはいえ、実際に利用しづらいとなると、解決については当事者の話し合いベースとなります。この話し合いを行っている作業時間が双方にとって負担になることが多いのです。

 

住居とは少しズレますが、コロナ禍は賃借人側からオーナーへ賃下げをお願いする減額交渉が見られたのと対比的に、現在はインバウンド需要の回復から、今度は民泊等でオーナーから賃借人への減額増額要求が多いという話も聞きます。

 

民泊についての相談も、昨年から増えています。裁判となれば、賃料の増額を迫られている側が強いのは事実ですが、上述した通り、手続負担が大きいこと、そして「賃料が不相当になった」ことの立証のハードルが高いことから、対応する時間や労力を踏まえると、筆者も「ある程度の増額を飲んで、早期にトラブルを終えるのがビジネスジャッジとして現実的ではありませんか?」という回答が多くなります。

 

よくあるのが、Aさんの例のように、賃借人側がバリバリ働く多忙な世代なのに対し、オーナーはすでに仕事から引退し、時間だけはたっぷりある…といったケースです。タワマンでも、建設から分譲までは大手不動産会社が取り仕切っていても、各部屋のオーナーは、老後の資産形成のために購入したという個人も多く、時間を持て余した高齢者世帯のオーナーと、働き世代との紛争に陥るということは多々あります。

 

賃料トラブルは昔から、借地、商業テナント、分譲賃貸…と、なくなることのないトラブル類型だといえるでしょう。

タワマンの「賃料増額トラブル」、今後は増加の一途か

賃料増額トラブル自体は、どの物件でも生じうる典型的なものですが、とくに、近年のタワマンを巡る状況を見ると、今後は賃料増額トラブルが多発するのではと懸念しています。

 

ひとつは、コロナ禍以降の建築費高騰の影響です。ここ数年でも、建築資材の高騰、輸送費の高騰などによって、建築費が跳ね上がっています。したがって、新しくできたマンションほど高騰した建築費の影響を受け、分譲価格や賃料価格が高くなる傾向が見られます。すると、数年前に建設された同じような立地のマンションも、新しい物件の高額な賃料につられて値上げされる現象が起きます。「ほとんど立地が変わらないのだから、賃料はあがってしかるべき」というわけです。

 

また、タワマンの場合、建築された当初に契約・貸し出された賃料は、類似物件が多数あることから、比較的安く設定されます。しかし、一度賃貸が埋まってしまうと、今度は空室が出にくく、築年数が経過しても、あとから貸し出される物件のほうが高額な賃料設定になるといった現象も起こります。

 

いずれにせよ、都内近郊を含めて、立地のよいマンションの分譲価格・賃料価格の高額化は避けられない現象ですので、今後は一層、賃料紛争トラブルが増加するのではないかと懸念されます。

 

 

山村 暢彦
山村法律事務所 代表弁護士

 

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