(※写真はイメージです/PIXTA)

派手な生活ぶりの経営者が亡くなった直後、親族が必死の形相で相続放棄に奔走――。相続の現場では、こういったケースは実に多く遭遇します。人がうらやむ華麗な生活をしていたはずが、相続人が血相を変えて相続放棄に走るのには、どんな背景があるのでしょうか? そして、相続放棄された後の資産には、どんな問題が残るのでしょうか。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

派手な暮らしぶりでも…「借金まみれの経営者」は一般的

派手な暮らしをしているように見える経営者の方のなかには、かなりの高確率で、事業のための多額の借金を抱えている方がいます。

 

事業を行っている場合、運転資金や設備投資のために借金をするのは一般的なことです。赤字企業でなくても、借金をして事業規模の拡大を加速するケースはしばしばあります。

 

借金返済や事業の拡大が計画通りに進んでいればなにも問題ないのですが、経営者の方に万一の事態が生じると、大変なことになります。

 

とはいえ、万一経営者が突然亡くなっても、団体生命信用保険に加入し、借金返済を免れる特約をつけておけば問題ありません。しかし、このような特約がつけられる借入ばかりではないため、万全を期すならば、借金を返済できるように生命保険にも加入しておくべきなのです。

 

実際のところ、そこまで考えて周到に準備している経営者はまれです。そのため、生前は人目を引く派手な生活ぶりだったのに、亡くなったとたん状況が一転し、相続人たちは多額の借金から逃れるため、一斉に相続放棄の手続きに走る…という事態が生じるのです。

 

「あんなにすごい高級車を乗り回していたのに?」

「超一等地のタワマンに住んでいたのに?」

 

相続人からしたら「あの人が亡くなったことで、ひょっとしたら自分にも遺産が…」と、少なからぬ期待を抱いていたところ、まさかの大借金発覚となれば、大慌てです。

相続放棄された場合、法律上「室内の荷物の処分」が不可能に

以前、筆者がある不動産会社から相談を受けた事例です。

 

ある経営者が急死しました。この方は、超高級タワマンを借り、そこに暮らしていました。そして相続人たちは、上述の説明のように相続放棄することになりました。

 

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、相続放棄する場合は、相続財産の一部であっても、取得したり売却したりすること(「処分行為」といいます)は禁じられています。都合のよい財産だけ取得することは許されないのです。

 

しかしその結果、相続人は賃借人の荷物を片付けることをせず、経営者が暮らしていた部屋を放置しました。賃貸人のオーナーは、部屋いっぱいに残った荷物を見て頭を抱えてしまいました。

 

筆者は、この賃借人の残した荷物、すなわち「残置物」の処分について相談を受けたのです。

 

一昔前は、このあたりの扱いが厳密でなく、オーナーによる荷物の処分も見過ごされることがままあったようです。

 

しかし現在は、このような「自力救済行為」はご法度です。貸した部屋にオーナーが勝手に入れば住居侵入罪に該当しますし、勝手に賃借人の荷物を捨れば、器物損壊罪等に問われます。このことから、賃借人の方が亡くなり、相続放棄された場合、部屋の中の荷物を勝手に捨てることが、法律上できなくなってしまうのです。

1億円超のタワマン、残置物のせいで割安価格となって市場へ…

相続放棄された財産は国庫に帰属するため、国の所有物になります。したがって、正式に処理するには裁判所を通した手続が必要になります。

 

このような残置物を処理するには、裁判所を通じて「相続財産清算人(改正前:相続財産管理人)」という財産管理人を選出してもらい、その方の同意を得て、はじめて荷物が処分できるのです。

 

過去には、このような残置物のある不動産が市場に流れてくることもありました。

 

本来なら1億円を軽く超えるタワマンなのに、残置物の撤去の問題があったことから融資付けが難しく、キャッシュ一括払いという条件ながら、非常な割安で出回った、という物件の話も聞いています。

 

令和5年の民法改正があり、所有者不明土地管理制度などとともに、相続財産清算人や不在者財産管理人などの手続きもより広く世間に知られるようになりましたが、少し前までは、手続きやその費用などがよくわからず、不動産会社が買い取って撤去するという判断もできなかったのでしょう。

 

最近でも、このような手続の負担を嫌い、残置物の問題がある不動産を割安で手放してしまうオーナーもいるようです。

 

財産管理人の手続は、相当なゴミ屋敷だったとしても100~200万円程度の費用と、半年から1年程度の時間を見込んでおけば解決できる性質のトラブルです。

 

この記事を読まれた皆さんは、ぜひよく覚えておいてください。そこまで多くはありませんが、残置物問題がある代わりに超割安という物件が、市場に流れてくるかもしれません。

借金する場合は、万が一の備えを周到に!

借金対策が甘いばかりに、万一の際に相続人が困ってしまう経営者の方の例をご紹介しましたが、実は一般的な住宅でも、同様の問題が生じます。

 

住宅ローンは組んだものの、団体生命信用保険には加入していなかったという男性が亡くなったのですが、その妻は連帯保証人になっており、破産に追い込まれた、というケースもありました。

 

連帯保証人になっている場合、万一の際には相続放棄しただけでは事態は収束せず、自身も破産することも起こりえます。

 

「借金」というのは、有効利用すれば資産形成の強い味方になりますが、万が一に備えて、団体生命信用保険や生命保険等によるリスクヘッジも念頭において有効活用する必要があるでしょう。

 

 

山村 暢彦
山村法律事務所 代表弁護士

 

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