(※写真はイメージです/PIXTA)

人は亡くなるとき、何らかの形で「遺産」を持って亡くなるため、どの家でも必ず発生するのが「相続」。そして、親族間で「遺産争い」といったトラブルが発生することも、ドラマや映画の世界ではお馴染みの光景でしたが、「昔と今では、相続トラブルの様相が変わってきた」と、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏は言います。牧野氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、詳しく見ていきましょう。

郊外の実家を「共有相続」した兄妹に起こった諍い

これは実際に私に相談があったお客様の事例です。お客様は中堅企業のサラリーマン。数年前に父親が亡くなり、母親はすでに他界されていたので、親の財産をきょうだい3人で相続しました。その際、東京郊外にある彼らきょうだいが過ごした実家は、3人の共有で等分に受け継いだのだそうです。

 

彼は3人きょうだいの真ん中。兄は海外赴任でもともと家には何の関心もなかった人。妹はすでに結婚して埼玉県に在住。この妹が相続の際にはもっとも現金にこだわったといいます。

 

相続後も家の管理を誰かがしなければなりませんが、妹は自分の家のことで精いっぱいだからと、なんだかんだと理由をつけて全く実家には姿を現しません。仕方がないので、次男である彼が、休みの日を利用して数週間に一度、家に風を通し、庭の植栽を剪定したりして管理をしてきました。

 

でも自分もすでに神奈川県内に家を確保している。兄は当分外国暮らしが続くとのこと。妹は相続時にも強硬に現金が欲しい、といっていたことだし、なにやら不動産価格も上がっている。このチャンスに家を売ってしまおう。売ったお金をみんなで分ければよいではないかと考え、これを兄と妹に告げました。

 

兄は、そもそもどうでもよいと思ったのか、

 

「ああ、お前の好きなようにすれば。だって俺は帰国しても別にマンションがあるし。だいたいそんな不便なところから通勤なんてできないよ」

 

とほぼ想定通りの返事。ところが妹が驚愕するようなセリフを吐いたのです。「あら、何言ってんのよ。あの家はお父さんが多額のローンを組んで私たちのために一生懸命働いて建てた家よ。売る、なんて絶対に許さない。お兄ちゃんってなんて冷たい人!」

 

不動産の売却は物件の所有者全員の同意がなければできません。現金派の妹からの思わぬ浪花節。

 

「でも、どうするのさ、この家。郊外にあって最寄りの駅からもバスで25分。東京都心までは駅からさらに1時間以上かかる。家を貸すにも借手なんかいやしない。だいたい家を管理しているの、俺だろ」

 

彼の述懐でした。

 

誰の役にもたたない不動産でも引き継がれていく

あたりまえですが、不動産はただ所有しているだけで、固定資産税や地域によっては都市計画税がかかります。家を維持していくには、マンションなら管理費や修繕積立金の負担が毎月発生します。

 

戸建て住宅でも家の風通しや通水などをこまめにしていないと、特に木造住宅などはあっというまに傷んでしまいます。細かな修繕費用の負担、庭木の剪定などなど費用の塊です。

 

このように誰も使わない、そして誰の役にもたつことがない不動産であっても、不動産は引き継がれていくのです。

 

車や機械であればこれをなくしてしまう、つまり捨ててしまうことができますが、不動産は家を壊せても、土地を削り取ってこの世からなくしてしまうことは不可能です。マンションに至っては自分の意思では壊すこともできず、月々の費用負担からも逃れることができません。相続財産の対象としてなかなか厄介な存在なのです。

 

相続とは、世間ではなんとなく、税金の問題? とステレオタイプに考えがちなのですが、そうではありません。まず相続はどこの家でも必ず発生するものです。それは人が亡くなるからです。そして亡くなった人は何らかの形で「遺産」を持って亡くなるものなのです。

 

普通の家庭で普通に起こるのが相続です。そしてその受け継がれていく遺産の中に、税金はかからなくとも、厄介者となった不動産が隠れているのです。

 

 

牧野 知弘

 

オラガ総研 代表取締役

 

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※本連載は、牧野知弘氏の書籍『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

負動産地獄 その相続は重荷です

負動産地獄 その相続は重荷です

牧野 知弘

文藝春秋

資産を巡るバトルでも相続税対策でもない。 親が遺した「いらない不動産」に悩まされる新・相続問題が多発! 戦後三世代が経過していく中、不動産に対する価値観が激変。 これまでは相続財産の中でも価値が高いはずだった…

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