「きちんと返済していかなければ」と思っていたところに…
「借入金の返済を止めたら、どうでしょうか?」
銀行員から「借入金の返済を止めたら、どうでしょうか?」と言われることがあります。銀行にはきちんと返済していかなければならないと思っていたところに「止めたらどうでしょう」などと言われると驚いてしまいます。
銀行員がこのように言う場合、その銀行から新たな融資が出る可能性が低くなっていることが推測されます。
銀行では融資先企業ごとにそれぞれ〈融資方針〉を決めています。銀行員はその融資方針を念頭に置き、担当先の社長などと接しています。「借入金の返済を止めたらどうか」と言ってくる場合、新たな融資は行わない方針なのでしょう。この場合、銀行員が考えることは、〈自分の銀行や他の銀行が融資を行わなければ、その会社の資金繰りはどうなるか〉です。
新たな融資がどこの銀行からも出ず、一方で、既存の融資の返済がキャッシュフロー(事業活動により得られる利益から生み出される現金)のなかでできないとなると、やがては資金繰りが破綻(はたん)します。そういう事態が予想される場合、破綻を防ぐために企業が行うべきことは、既存の融資の返済を減額・猶予(ゆうよ)することです。これを「リスケジュール※」と言います。
※リスケジュール……「リスケ」とも略称される。その判断基準となるキャッシュフローは、決算書のなかの損益計算書を見て、簡易的な計算式〈当期純利益+減価償却費〉で計算できる。例えば、事業でキャッシュフローを年間300万円稼ぐ会社が、既存の融資の返済を毎月200万円、年間2400万円している場合、年間で〈300万円-2400万円=▲2100万円〉の現金がなくなる。この状況では〈年間2100万円以上〉融資を受けられれば、現金(キャッシュフロー)は減少せずに済む。しかし、どこの銀行も新たな融資を行わない、もしくは、行っても年間2100万円にとうてい届かない金額しか新たな融資が出ない場合、返済を続ければ現金が減少していき、やがては資金不足に陥ることになる。そこで月200万円の返済を減額し、月20万円の返済にすれば、年間240万円の返済となり、キャッシュフローの年間300万円のなかに収まる。これがリスケジュールの考え方である。
リスケジュールでは、返済を猶予し、毎月の返済を0(ゼロ)にすることもよく行われます。なお、リスケジュールでは元金の返済を減額・猶予しても、利息は今までどおり支払っていくのが普通です。
企業の資金繰りが破綻し、事業が継続できなくなってしまうと、銀行は残った融資を回収できずに貸し倒れが出て、大きな損失となってしまいます。「新たな融資が出ないなかで返済を続けて企業が倒産してしまうよりは、今はリスケジュールを行い、まずは資金繰りがまわるようにし、事業を継続してもらいたい…」「そのなかで経営改善してキャッシュフローを多く稼げるようにし、できれば将来、返済を再開してもらいたい…」
このような長期的な視点から、銀行員は「借入金の返済を止めたらどうか」という提案をしてくるのです。
しかし、このようにリスケジュールを勧めてくる銀行員もいる一方で、〈やはり返済を続けてもらい、自分の銀行の融資残高を少しでも減らしたい〉と考える銀行員もいます。むしろ、〈返済を続けてもらいたい〉と考えるのが普通で、銀行員からリスケジュールを企業に勧めてくることはレアケースです。ほどんどないと思っていたほうがいいかもしれません。
すなわち、銀行員からのリスケジュール提案を待つのではなく、自社の資金繰りを見すえて、企業側から銀行にリスケジュールを相談・交渉するのが本来あるべき姿です。
《ポイント》
「借入金の返済を止めたら、どうでしょうか?」と言われた場合、その銀行で新たな融資が出る可能性は低くなっているということ。銀行から新たな融資が出ず、一方で既存の融資の返済を続ければ資金繰りが破綻する場合は、リスケジュールを銀行に相談・交渉する。
川北 英貴
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