〈銀行の得、企業の損〉にしかならないことを、さりげなく…
(新規の銀行から)
「今後の取引のためにも今回は融資を受けてください」
支店で働く銀行員の多くは営業目標に負われています。銀行では本部から支店に営業目標が割り振られ、支店では支店長や営業係長からテラー(窓口係)や営業係(得意先係)に営業目標が割り振られます。
営業目標の種類にはいろいろありますが、新規融資先の獲得はその一つです。あなたの会社に新規の銀行が営業に来るのであれば、その銀行員は新規融資先獲得のために営業に来ているのです。
次のようなことがありました。ある会社に新規の銀行が営業してきて、社長に「500万円、借りてもらえませんか」と言ってきました。
この500万円がプロパー融資であれば借りてもよかったでしょう。金額は500万円と少額かもしれませんが、融資を受け返済実績をつけることで、その銀行からもっと大きな金額の融資を受けられるように今後なっていくことが期待できます。しかし、この銀行員は「定期預金500万円を事前に作って担保に入れてほしいです」と言ってきました。
定期預金500万円を作って担保に入れたうえで融資を受ければ、この会社としては〈自分の預金を自分に貸す〉ことと同じです。それで利息を銀行に支払うのであれば、企業にとっては損でしかなく、何をやっているのか分かりません。
社長は当然、断ったのですが、銀行員が次に言ったことは「今後の取引のためにも今回は融資を受けてください」です。あたかも今回、融資を受けておけば、今後は企業にとって理想的な融資を受けられるようになるという言い方です。
しかし実際、このようなことを言う銀行が、後に企業にとって理想的な融資を出すことはなかなかないものです。そのような融資を出せるなら、今回、出せるはずです。銀行員のこの誘導に惑わされず、社長は「プロパー融資なら受けます。融資と同額の定期預金を担保に入れるのは、弊社にとって意味がないので融資は受けません」と断りました。
この事例のように〈銀行の得、企業の損〉にしかならないことを社長に気づかれにくい言い方で銀行員が言ってくることはよくあります。銀行員の提案を聞く社長としては、銀行員が言ってくることの真のねらいは何かを考える習慣をつけるべきでしょう。
この事例では定期預金担保ですが、信用保証協会の保証付融資でも同じです。保証付融資を受けるのなら、今、融資を受けている既存の銀行からで十分です。新規の銀行から融資を受けるのなら、企業にとってメリットがあるべきです。
新規の銀行からプロパー融資を受けられるのであれば、それはプロパー融資を受けられる銀行を増やすことを意味するので企業にとってメリットです。
なお、保証付融資でも将来、企業が返済できなくなったときに銀行は貸し倒れの20%(制度によっては0%)は負担します。それでも保証付融資は、銀行にとってはリスクを大きく抑えられるものですから、新規の銀行からはできる限り保証付融資ではなくプロパー融資を受けるようにしましょう。
《ポイント》
銀行員から「今後の取引のためにも」と言われても、社長は心を動かさず冷静に考えるべき。銀行員と話をするときは、銀行員の言うことの真のねらいは何かをつねに考える習慣をつけよう。