恐ろしい…銀行員が経営者へ「根抵当権の設定」をしきりに勧めるワケ【ベテランコンサルタントが解説】

恐ろしい…銀行員が経営者へ「根抵当権の設定」をしきりに勧めるワケ【ベテランコンサルタントが解説】

経営者は銀行員の言葉に「どういう意味なのか?」と疑問や不安を感じることがあるのではないでしょうか。ここでは、銀行員のひとことに秘められた真意について、ベテランのコンサルタントが解説します。※本連載は、川北英貴氏の著書『社長、この1冊で融資交渉が強くなります! 銀行員のそのひとことには理由がある』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

「担保余力」は、今後に備えて取っておけるのだが…

「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ」

 

◆根抵当権と抵当権

不動産を担保に入れる場合、〈根抵当権〉と〈抵当権〉の方法があります。

 

根抵当権とは、銀行が企業に対して出しているすべての融資を包括して担保の対象とするものです。例えば、ある不動産に根抵当権5000万円を設定した場合、既存の融資も今後行われる融資も、5000万円の極度額のなかですべて保全されることとなります。

 

新たな融資を行うときでもそれ以外のときでも、銀行員が「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ」と勧めてくることがあります。

 

不動産を担保に入れるには、根抵当権以外に、抵当権という方法もあります。抵当権では特定の融資のみを担保の対象とします。例えば、新たに2000万円の融資を行い、その融資を対象とする抵当権が設定されると、その2000万円の融資のみ保全されます。その融資が完済されると抵当権は消滅します。

 

銀行員が「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ」と言ってくる表向きの意味は、抵当権であれば融資を受けるごとに毎回、設定しなければならないが、根抵当権であればその必要はないから便利、だから根抵当権を設定してはどうか、というものです。

 

銀行員からこのように言われた場合、次の2つの見方で考えてください。

 

①今までの融資も根抵当権で保全される対象となる

②新たな融資の残高が返済につれ減ることで過去の融資も保全されていく

 

以下、それぞれの見方を具体例とともに解説します。

 

①今までの融資も根抵当権で保全される対象となる 

 

例えば、現在の融資残高はすべてプロパー融資、無担保で3000万円であるとします。新しい融資2000万円が不動産を担保に入れる条件で出る場合に、銀行員に、

 

「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ。今後の融資も考え、大きめの金額で設定しておいてはどうですか?」

 

と勧められて、根抵当権を5000万円設定したとします。

 

この場合、過去に無担保で受けたプロパー融資3000万円も含めて担保の対象となります。無担保で受けた融資を後で担保の対象とするのは、企業にとって損でしかありません。

 

この例で、銀行員が大きい金額での根抵当権設定を勧めてきた真のねらいは、過去に無担保で出した融資もこの機会に担保の対象とすることだったのです。真のねらいを社長に気づかれないよう、あたかも企業にメリットがあるように「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ」と言うのです。

 

なお、根抵当権を5000万円設定するのではなく、新たな融資と同額で根抵当権を2000万円設定する場合に、一方で不動産の担保価値が5000万円あるとすれば、3000万円の部分(担保価値5000万円-根抵当権2000万円)を担保余力と言います。

 

担保余力は今後、不動産を担保に入れなければ融資を受けられないときに備え、とっておけます。今後に備えて、とっておけるのに、銀行員に誘導されて根抵当権を5000万円、設定してしまったら、企業にとっては大きな損です。

 

②新たな融資の残高が返済につれ減ることで過去の融資も保全されていく 

 

例えば、現在の融資残高は1本のプロパー融資(融資は〈1本〉〈2本〉と数えるのが慣例)、無担保で3000万円(当初5000万円、返済期間5年、月83万円返済、これを〈融資A〉とする)であるとします。新しい融資2000万円(返済期間3年、月返済55万円、これを〈融資B〉とする)が不動産を担保に入れる条件で出る場合を考えてみます。

 

銀行員に「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ」と勧められて根抵当権を2000万円設定した場合は、①の場合とは異なり、過去に受けたプロパー融資の残高3000万円は無担保のままです(厳密に言うと、融資残高合計5000万円全額に対し根抵当権2000万円となり、この3000万円の融資も担保の対象と言えますが、単純化して考えます)。返済が進んで1年後、

 

〈融資A〉の残高は1年間で1000万円返済され2000万円

〈融資B〉の残高は1年間で660万円返済され1340万円

 

になったとします。根抵当権は2000万円なので、融資Bの返済が進んだ分、融資Aの残高のうち660万円(根抵当権2000万円-融資B残高1340万円)も保全されたことになります。

 

銀行にとって根抵当権を設定するメリットの一つは、この例のように返済が進むにつれて、過去に無担保で出した融資の保全も図れるということです。

 

では一方、根抵当権を2000万円設定するのではなく、特定の融資、ここでは〈融資B〉のみを担保の対象とする抵当権で設定する場合はどうなるでしょうか。

 

この場合、返済が進むにつれて融資残高は減少し、その分、根抵当権2000万円の場合と比較して担保余力が拡大していきます。根抵当権2000万円よりも、抵当権で設定するほうが企業にとって有利なのです。

 

◆銀行から不動産を担保に入れるよう言われたときの考え方

銀行員の真のねらいは何か、銀行にとってどんなメリット/デメリットがあり、企業にとってどんなメリット/デメリットがあるのか、いつも考える習慣をつけたいものです。「根抵当権を設定すると、今後はいちいち担保を入れなくてよいですよ」と言われた場合、それが新たな融資を行う条件でなければ、拒否すればよいでしょう。

 

一方で、新たな融資を行う条件とされた場合には、そもそも本当に不動産を担保に入れなければ融資を受けられないのか確かめるべく、時間に余裕があればその融資は保留にし、他の銀行でも無担保で融資を申し込みましょう。

 

他の銀行でも無担保での融資が難しいのであれば、不動産を担保に入れることを考えますが、特定の融資のみを担保の対象とする抵当権の設定にとどめたいところです。また、銀行が根抵当権でないとダメだという場合でも、新たな融資と同額での根抵当権の設定にとどめるべきでしょう。

 

《ポイント》

「今後いちいち担保を入れなくてよい」と言われて根抵当権を設定してしまえば、企業にとって損がとても大きい。

次ページ「借入金を減らしていきましょう」

※本連載は、川北英貴氏の著書『社長、この1冊で融資交渉が強くなります! 銀行員のそのひとことには理由がある』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

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川北 英貴

すばる舎

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