今回の利下げ織り込みに残る「4つ」の問題
ただし、以上の議論でも問題は4つ(も)残ります。
1.利下げが始まるタイミング
ひとつは、いつから利下げが始まるかです。仮に今年中に6回の利下げが実施される場合、5月から利下げを開始することになります*。
少し早すぎる気がしますし、5月から毎回の利下げは「しっかりと下っていく感」があり、金融市場では、a.「FRBは実は景気の下振れをかなり懸念しているのではないか?」という心配が出たり、もしくは、b.金融緩和に株価が反応してインフレ懸念が生じるように思えます(→*「1回の会合での0.5%引き下げ」は「緊急時対応」ですから、「インフレ鈍化に対応する調整利下げとしては『ない』」と思います)。
2.FRBが示す長期の政策金利水準が「低すぎる」可能性
2.もうひとつは、「FRBが示す長期の政策金利水準2.5%」が低すぎる可能性です。前節で述べたように、この「中立金利2.5%」が正しいとすれば、「来年末時点の織り込みである3.3%」は穏当です。
しかし、たとえば、(観察が難しい)インフレ期待が3%、(同)潜在成長率が1~1.5%程度ならば、中立金利は4~4.5%程度と目されます。
このとき、現在の織り込み「3.3%」は中立金利よりも低く、小さくない金融緩和を示唆するため、(定義しだいですが)「ソフトランディング」と整合性を持つためには、政策金利の織り込みが上方修正されるでしょう。
3.実際のインフレ率や景気がそこまで鈍化するかどうかわからない
そして、3点目は、2点目(基準値としてのインフレ期待や潜在成長率が高い)に類似していますが、「実際のインフレ率や景気がそこまで鈍化するかどうか」です。
4.ソフトランディング見通しの範囲内では、これ以上金利は下がらない
4.最後の4点目は、「ソフトランディング見通しの範囲内では、これ以上、金利は下がらない≒現在の金利は下限に近いだろう」ということです。
最後の点を言い換えると、「金融市場の現在の利下げ織り込みが『正しい』と認めるとき、金融市場は自分たちの見通しが正当化されたことを喜ぶかもしれませんが、それは同時に、もうこれ以上、金利低下による株価押し上げは期待できないと覚悟する必要がある」ということです。
もし、金融緩和による追加的な株価押し上げがあるとすると、それは、量的引き締め(QT)の停止でしょう。
重見 吉徳
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