金融市場はFRBよりも大きな利下げを見込むが…
筆者も最近あちこちで、金融市場の利下げ織り込みを目にしてきましたから、「いくらなんでもマーケットの利下げ織り込みは行き過ぎではないか」と疑っていました(います)。
数字を確認しておくと、FRBは今年中に「3回」(1回の利下げを0.25%として換算;以下同じ)、対する金融市場は今年中に「5~6回」程度の利下げを織り込んでいます(→2024年1月第2週目までの観測値に基づく)。
これをみると、「マーケットの利下げ織り込みは行き過ぎ」と思えるのですが、必ずしもそうともいえません。というのも、「今年だけ」ではなく、「来年を含む今後2年」を考えると、両者の違いはさほど際立たないためです。
「2025年末時点」のFRBの政策金利見通しは3.625%、同じく金融市場の織り込みは3.27%程度(1月第2週の平均値)です。すなわち、「来年末時点」での両者の利下げ織り込みの差は「利下げ1.4回分程度」で、①日常的な変動性を考慮すると誤差の範囲であり、②両者の主要な違いは「利下げの中心が今年か来年か」、といっても過言ではないでしょう。
リーマン前よりも“大幅”だが、「穏当な見通し」といえるワケ
もうひとつ、疑問を「つくる」なら、「今回の利下げ織り込みは、2006年のリーマン前などの過去の局面と比べても行き過ぎでは?」と問えるかもしれません(→筆者自身に問うたことです)。
今回の利下げ織り込みを2006年6月の利上げ打ち止め後と比べると(当時も打ち止め後に利下げ織り込みが進みましたが、それでも)2007年夏にサブプライムローン担保証券に投資をしていた一部のファンドが閉鎖されるまでは(≒その後、実際の利下げが始まるので、利下げの直前までは)せいぜい0.6~0.8%程度の織り込みでした。
また、2000年の打ち止め後や2018年12月の打ち止め後の利下げ織り込みも今回ほど大きくはありません。
したがって、やはり、今回の利下げ織り込みは当時よりもかなり大幅です。
しかしながら、現在の「FRBが考える長期の政策金利水準2.5%」からすれば「来年末の政策金利3.2%前後は低すぎる」とは結論できません。「インフレが高止まりする分orインフレ懸念が残る分、中立金利よりも幾分高い政策金利を維持する」と考えれば、穏当な見通しです。
また、「今回はインフレが高く打ちあがった分、政策金利も高いので、そこから目標値まで『降りる幅』は大きくなる」といわれれば、それはそれで成立する議論です。
こう考えると、金融市場の現在の利下げ織り込みは「行き過ぎ」とまでは言い切れないように思えます。言い換えると、織り込みは「合理的な見通しの範囲内」かもしれません。
この後の記述と混乱のないように、再度強調すると、現在の金融市場の織り込みは(正解か不正解かは別として)「合理的な見通しの範囲内」かもしれません。