育て方を間違えたかな…Aさんが漏らした「後悔」
ところで、両親から心配されているCさんですが、両親の受け入れ態勢のおかげか、時を経るにつれてほんの少しずつ穏やかになっているようです。
働くのを辞め、自宅にこもるようになった当時は両親に罵声を浴びせるのは日常で、ときには暴れることもありました。
それが最近では落ち着き、パソコンで動画を観たりなにか調べたり、たまに外出することもあります。食事は両親と一緒に食べる日が多いですが、ときには自分で冷蔵庫のなかのもので料理をすることもあり、「自室にこもりきり」というわけではないそうです。
とはいえ、夫婦が日頃やんわりと就職を促しても、それについては頑なに反応しないそう。
「年齢的には立派な大人だとわかってはいたのですが、子どもの味方をするのは親の役目だと思い、息子の言動をすべて受け入れていました。これがかえって成長を妨げたかもしれませんね。育て方を間違えたかな……」Aさんは自問し、うなだれている様子です。
結局この日、A夫妻は筆者と問題を洗い出したのみで、解決策を見出すところまではいかず帰宅されました。
Aさんが入院…Cさんに起こった「明らかな変化」
それから2ヵ月が経ち、夫婦がその後どうされたのか心配していたところ、A夫妻はCさんもいっしょに3人で筆者の事務所に現れました。
「この2ヵ月のあいだ、どうされていたんですか」と筆者が尋ねると、夫婦がその「激動の2ヵ月間」について話してくれました。
Aさんは前回の相談後まもなくして、かかりつけ医から検査入院を勧められ、大きな病院で検査を受けたそうです。すると医師が懸念していた病巣が見つかり、Aさんは手術を受けることに。1ヵ月間入院し、現在は順調に回復しているといいます。
「生涯で初めての入院だったのですが、そんなことよりも、息子が頻繁に見舞いに来てくれたことと、久しぶりにじっくり話ができたことがうれしかったんです」とAさんは微笑みました。
一方Cさんも、Aさんの入院をきっかけに大きな変化がありました。自身も50歳を過ぎて将来が心配になってきたところに、両親から「筆者のところに相談に行った」という話を聞き、それに加えAさんが入院したことで、「このままではいけない」と危機感を抱いたそうです。
その後Cさんは、「これは」と思う企業数社に、エントリーシートを送りました。ブランクを埋めるべく、工夫して自分のスキルを詳細にアピールしました。すると、「変わったことを書いてくる50歳の男性がいる」と、D社の採用担当者が目を止めてくれたようです。CさんはこのD社に、1年間の契約社員として採用されました。
CさんはD社に、すぐに会社で勤務することは不安なこと、また退院したAさんを定期的に病院に連れていかなくてはならないことを正直に話し、出社するのは週に2~3日で、残りの日は在宅勤務をしているそうです。
月収は約25万円で、厚生年金にも加入できました。働きぶりが認められ、順調にいけば来年以降は正社員に登用してもらえるかもしれません。仮に65歳の定年まで月収25万円で働くと、老齢厚生年金が149万7,500円(月額12万4,800円)受給できます。
Cさんは、「D社は自分を認めてくれるし、自分も年を取って少しずついろんなことが正直に話せるようになってきました。社内には、自分のようにブランクがある同じような境遇の人もいて、働きやすいです。もう短期間で辞めることのないように、頑張って働きます」と背筋を正します。
今後Cさんが働き続ければ、夫婦はこれまでCさんのために負担していた支出(約11万円)をそのまま貯蓄に回すことができます。もし両親のうちどちらかが亡くなっても、Cさんの給与があることから、貯蓄を崩すことなく生活できます。
ただ、Cさんは「ここのところ、父も母も物忘れがひどいので心配です。検査をしてみないとわかりませんが、認知症かもしれません」と話します。
Aさんの治療費もあるところ、今後両親の介護が必要になればその費用が心配ですが、その際は夫婦の貯蓄を取り崩せば賄うことができるでしょう。
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