子どもは「生きるため」に親を好きになる
親も含めた「家族」というものは、子どもにとっては絶対的な存在であり、未熟さと強固なつながりとを併せ持つ特殊な組織です。その中で、子ども時代は自覚している以上に立場が弱く、生きるためには親からの助けが必要です。大げさではなく、親は子どもの命を握り、生活を牛耳っています。
私たちは頭で意識している以上に、生きものとして生き残りに敏感にできています。
そのうえで、人間はほかの生きものと違って、食べ物や住居といった物理的なものだけ揃えば生きていけるわけではありません。私たち人間は、「人と温かい関係性を結ぶ」という情緒的なつながりが、健全に生きるために必要不可欠であると指摘されています。
そのことを、大人よりも無意識に察知しているのは、子どもなのだと思います。
親と情緒的な絆を結ぶことは、子どもにとって命に関わる大問題です。そのため、客観的に見たら酷い親であったとしても、子どもはある程度の年齢になるまでは親を好きになり、認められようとがんばります。そうすることが“安全”につながり、日々を生き抜く力になるからです。
親がしんどい…は「自分自身で人生を決められる段階」に来た証
親にしっかり愛されている子どもに比べて、虐待されていたり、親に安心できず愛されていると感じられなかったりする子どものほうが、より親に好意を持ち、親と良い関係を結ぼうと努力する傾向があります。そうすることでその家庭に適応しようとする子どもの能力なのでしょう。
つまり、子どものころは親への批判的な思いを抱く自由すらなかったのかもしれないのです。
そのため、親に対してネガティブな感情を抱くようになったなら、「やっとそう思える段階にたどり着けた」と捉えられることがほとんどです。
「昔は好きだったのに、今は親がストレスになっている」としたら、親の助けが必要な時期は、彼らとできる限り友好的な関係性を結ぶように尽力していたのでしょう。そうして今、親から離れても生きていけるようになったら、親の未熟さを認識するようになり、自分に合った生活を選ぶことができている証だと言えます。
「今のしんどさ」を軽くするために
子どもは生き残るために親を好きになり、「親に合わせよう」として、親のことを考え続けるという思考になっていきます。これは意外なほど“思考の癖”として強化されていることが珍しくありません。
子どものころは、自分のすべてを親にゆだねるしかありません。そのため、最高権力者である親のことを考えることは、安全の確保と危険の察知のために不可欠なので適応的な反応です。ただ、その“思考の癖”が大人になっても抜けないままであると、苦しみの原因になっていることがあります。
今の自分の“思考傾向”は、子どものときに必要だった習慣がそのまま受け継がれている可能性が高いと言えます。“思考の癖”は、そう簡単には抜けません。
けれども、意識すれば少しずつ確実に変えていくことができます。
初めは、どんなに自分の好きなようにと思っても、「親の意見が気になる」「親を悲しませたくない」と自分を優先できない息苦しさを抱えることと思います。
そのようなときは、どうか「親を気にしているのは子どものころの自分であって、今の自分ではない」と考えてみてください。
「親のことを考えてしまうのは癖かもしれない」と気づき、「今はもうそこまで考えなくていい」と見直していけると、今のご自身に適した対策を作っていけます。
今のあなたは自由です。あなたの人生をコントロールするのは、もう親ではありません。どうか、「もう自分で決めて大丈夫になったんだよ」と優しい言葉をご自身にかけてあげてほしいと思います。
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<本稿のまとめ>
●「親が好きだった」のは、自分が生き残るため。
●今の“思考の癖”は、これから変えていける。
●今の人生は、自分自身で決めていい。
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心理カウンセラー 寝子
臨床心理士。公認心理師。スクールカウンセラーや私設相談室カウンセラーなどを経て、現在は医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。トラウマの中でも、親子関係からのトラウマケアと性犯罪被害者支援をライフワークとしている。
臨床業務の傍ら、X(旧Twitter)で心理に関する発信をし始め、フォロワー1.5万人超え(2024年1月時点)。対処法よりも自分を理解することに重きを置いた内容が支持され、ブログ記事は「探していた答えが書いてあった」「自分の状態がクリアに理解できた」と評判になっている。
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