止まらぬ少子高齢化、爆増する単身者…日本のあまりに厳しすぎる「年金制度」の未来図【公認会計士が解説】

止まらぬ少子高齢化、爆増する単身者…日本のあまりに厳しすぎる「年金制度」の未来図【公認会計士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が進展する日本。いまや年金の問題は全国民の関心ごととなっていますが、若者の将来の年金額については大きく減額する可能性が示唆されており、非常に心配です。今後の日本の年金制度の行方について、FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

いまの若年世代の年金減額が「決定的」といえる、2つの理由

生徒:日本の少子高齢化が止まりません。私は20代ですが、この年代は年金をもらえなくなるのではないかという話を聞くこともあり、非常に不安です。実際のところどうなのでしょうか?

 

先生:率直なお話、人口減少によって、今後もらえる年金が実質的に減っていくことは避けられません。

 

生徒:やはり減ってしまうのですね…。

 

先生:理由は大きく2つあります。まず1つ、日本の年金制度は「賦課方式」という仕組みになっていることです。年金の支払い方には「積立て方式」と「賦課方式」があるのですが、賦課方式とは、いまの若い人が払っている保険料がそのまま今の高齢者の年金に使われるという仕組みです。

 

生徒:若い人が高齢者を支えているのですね。

 

先生:そうです。いまの若い人が年をとったら、その人たちの年金はまたその時点での若い人が払っていくことになります。「世代間の仕送り方式」ともいわれます。しかしながら、いまだに多くの人が、年金は貯金のように自分で積み立てたお金を、将来、高齢者になった自分が受け取る方式だと思っています。

 

[図表1]年金の仕組み

 

生徒:私もそう思っていました。

 

先生:年金が日本人全体で毎年どれだけ支払われているかご存じですか? 2020年度で、約53兆円です。

 

生徒:そんなにたくさん支払われているのですか!

 

先生:年金の水準が下がるもう1つの理由は「少子高齢化」です。保険料を払う若い人は少子化で減っていき、年金をもらう高齢者は増えてきました。これから高齢化は進みますから、年金額がもっと増えていきます。そのお金を集めるため、保険料をどんどん上げていかなければいけません。

 

[図表2]年金の内訳

 

 

[図表3]従来の年金額増加のイメージ

「負担に耐えられない…」現役世代の声に、政府はどう応えた?

生徒:若い世代の負担が重くなりますね…。

 

先生:そうです。「これでは保険料がどんどん上がり、現役世代が負担増に耐えられない」という批判が高まりました。そこで政府は2004年、年金の保険料に上限を決め、それ以上は増やさないことにしました。給料の18.3%を従業員と会社が折半するのです。

 

生徒:すると…?

 

先生:年金はあくまでその範囲内で出すことになりました。これまでは、支払う年金を先に決めて、それに応じて集める保険料を増やしてきました。それを逆にして、集める保険料を基準にして、それに合わせて年金を支払うことになったのです。

 

生徒:なるほど、逆になったのですね。しかし、これからは、働く人が減少します。そうすると、政府が集める保険料は減ってしまうのでは…?

 

先生:そうです。保険料が減っていくので、それに応じて年金を減らしていくことになります。これを長期間かけて徐々にやっていこうというのが「マクロ経済スライド」といわれる仕組みです。

 

[図表4]マクロ経済スライドのイメージ

 

生徒:年金はどのくらい減る見込みでしょうか?

 

先生:政府によれば、30年後の2050年には、年金は2割くらい減ると計算されています。2023年に30代の人たちは、将来の年金が2割減っていると考えておくべきですね。20代の人たちは、もっと減っているでしょう。

 

生徒:2割も減るのは厳しいですね…。年金が減らないように、なにかできることはないのでしょうか? 働く人を増やして、保険料をもっと集めるのはどうですか?

 

先生:それも有効ですね。いまは、70歳就業法があるので、高齢になっても働きやすくなりました。これは、希望する社員が70歳まで働けるようにすることが、すべての企業の努力義務とされる法律です。また、子育て中の女性なども働きやすい環境を作ろうとされています。ですが、そうはいっても、問題の解決にはなりません。

 

生徒:では、どうすればいいのでしょう?

 

先生:答えは、生産性を上げて賃金を高くすることです。

 

生徒:どういうことですか?

 

生徒:厚生年金の保険料は、定率制になっていて、給料の18.3%を従業員と会社が折半して支払います。それゆえ、給料が高くなれば、支払う保険料が増え、年金の財源を増やすことにつながるのです。

 

生徒:しかし、日本企業の給与水準はぜんぜん上がりません。日本はこの30年間、給与水準がほとんど上がってないと聞き、愕然としました。どうしたら給与水準が上がるのでしょうか?

 

先生:可能性があるのは、岸田首相がアメリカで表明した、ジョブ型雇用の給与体系の導入でしょう。これは、欧米のやり方です。欧米では、仕事の内容、つまりジョブをあらかじめ契約で決めておく働き方が普通で、給料はその仕事によって決められます。これに対して日本では、会社の社員になること、つまりメンバーシップをもつことだけが決まっていて、仕事の内容は会社都合によって頻繁に変更されます。そして給料はその人の年齢や勤続年数など、ジョブではなくヒトを基準として決められます。

 

生徒:欧米と日本では雇用のやり方がぜんぜん違うのですね。

 

先生:欧米のやり方をジョブ型雇用、日本のやり方をメンバーシップ型雇用と呼びます。岸田首相は、ジョブ型の職務給を取り入れた雇用システムへ移行させると表明しました。

 

生徒:そんな簡単に切り替えられるのでしょうか?

 

先生:日本のメンバーシップ型雇用で求められる社員は、あくまでその組織の中でうまくやれる人です。転職の壁は厚いし、長く勤めないと賃金も上がりません。これに対して、ジョブ型雇用で求められる社員は、ひとことでいえば仕事のプロ、スペシャリストです。それだけ転職も容易ですし、安い給料しか出せない会社からは人材が流出してしまいます。日本人の働き方を180度変えることになりますね。

さすがに、現役世代の所得が50%以上減ることはないが…

生徒:年金は、どこまで減らされるのでしょう。まさか、なくなってしまうことはありませんよね?

 

先生:現役世代の所得の50%以上減ることはないでしょう。政府は所得代替率で50%を確保することを、法律で明記しているからです。所得代替率というのは、夫婦2人のモデル世帯で年金をもらいはじめる時点の金額が、その時点の現役サラリーマン1人の平均的な所得の何%にあたるかを示すものです。

 

生徒:そのモデル世帯とは、どのような夫婦ですか?

 

先生:夫は平均的な給与水準で40年間勤めた元サラリーマン、妻は同い年でずっと専業主婦という夫婦です。昭和時代を象徴するような夫婦像ですね。1985年には、専業主婦の世帯は、共働き世帯の1.3倍ありました。

 

生徒:さすがにそれは古すぎる気が…。

「所得代替率50%」維持のため、税金投入や支払期間延長も…

先生:いまは完全に逆転して、共働き世帯は専業主婦の倍以上になっています。さらにいうと、日本でいま一番多いのは単独世帯、つまり1人暮らしで、全体の38%になっています。

 

[図表5]家族構成の変化

 

生徒:なぜ単独世帯が多くなったのですか?

 

先生:結婚が減っているということですね。婚姻件数は2021年に戦後最小になりました。生涯未婚率といって、50歳時点で1度も結婚していない人が、2020年時点で男性は28%、女性は17%にのぼります。

 

[図表6]婚姻件数の推移

 

生徒:そんなに多いのですか!

 

先生:しかも最近は、新型コロナの影響で、予想以上に少子化が進んでいます。妊娠や出産も減少してしまいました。それゆえ、年金の所得代替率は、今後50%を割り込むだろうと指摘する専門家が増えています。

 

生徒:50%を切るとどうなるのでしょうか?

 

生徒:簡単に法律違反するわけにいきませんから、所得代替率50%が守られるように、政府は年金制度を見直すことになるでしょうね。税金を投入するために増税するとか、国民年金の保険料を65歳まで納めさせるとか、改正があるでしょう。

 

生徒:私たち20代は、成り行きのままでは貧乏な老後生活が待っているということですね…。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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