(写真はイメージです/PIXTA)

欧州経済では、金融引き締め政策によってインフレ率の低下は見受けられるものの、実質成長率はマイナスになる状況が続いています。本記事では、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏、高山武士氏が、2024年の欧州経済の見通しについて詳しく解説します。

2.経済・金融環境の見通し

見通し)インフレ率低下で実質ベースでの回復が継続)

今後については、景況感が弱含む中で早期の成長加速は見込みにくい。ただし、インフレ率の低下が緩やかに実質ベースでの回復を促すと見られる。また、24年後半から25年にかけてECBが利下げに転じることも景気の下支えになるだろう。

 

[図表25]ユーロ圏の実質賃金伸び率/[図表26]設備投資意向(欧州委員会サーベイ)

 

消費については、インフレ率が急速に低下傾向したことで実質所得環境が大幅に改善した。7-9月期は、雇用者全体の実質賃金総額が前年比プラスとなっただけでなく、1人あたりの実質賃金伸び率もプラス転嫁した(図表25)。

 

景況感の悪い状況が続いているため、「過剰貯蓄」のバッファーが取り崩されて消費が活性化することも見込みにくいが、実質ベースでの緩やかな改善が続くと見られる。

 

投資については、企業の財務状況が安定しているなかで、グリーン化・デジタル化に対する需要が引き続き伸びを主導するだろう。

 

24年および25年については23年並みのRRF(復興・強靭化ファシリティ、復興基金の中核)からの資金受領を期待でき、投資の下支えになる。ただし資金調達環境がタイト化するなか、企業の投資拡大意向が縮小している(図表26)。

 

10-11月時点での23年の投資拡大見込みは3-4月時点における予定よりも縮小しており、24年の予定についても消極化している。そのため投資の伸びはごく緩やかなものにとどまるだろう。

 

域外経済については、当面、期待できない状況が続くと見ている。最大の輸出相手国である米国では中銀の金融引き締めによる成長率の低下、中国も不動産不況などによる内需の低迷が見込まれることから、輸出のけん引役が不在の状況が続くと予想される。

 

上記を踏まえれば、ユーロ圏経済の力強い加速は期待できない状況が続きそうだが、インフレ率の低下にあわせる形での緩やかな成長は達成できると考える。暦年でみた欧州経済の成長率は23年0.4%、24年0.7%、25年1.5%になると予想する(図表27)。

 

[図表27]ユーロ圏の経済見通し

 

インフレ率は23年で5.4%、24年2.4%、25年2.1%と予想する(表紙図表2、図表27)。

 

総合インフレ率は足もとで大幅に低下したものの、今後はエネルギー価格のマイナス寄与が縮小していくと見られることから、一段の低下は難しくなるだろう。

 

サービスインフレや賃金、基調的なインフレ率にもピークアウトの兆しが見られるが、妥結賃金上昇率は24年も4%前後の高さを維持すると見られ、今後の低下スピードはあくまでもゆっくりとしたものになると予想する。

 

その結果、2%台での推移は続くが、24年末までは2%目標の達成には至らないと予想している。

 

ECBは、24年前半までは賃金交渉の結果を見極めるために、様子見姿勢を続けると見られる。メインシナリオでは賃金上昇圧力がやや強い状況が継続すると見ているため、ECBが利下げに転じるのは24年下半期になり、利下げも段階的に進められると予想する。

 

政策金利はECBの市場介入金利(MRO、主要レポ金利)で23年末4.5%、24年末3.5%、25年末2.25%と予想している(預金ファシリティ金利では23年末4.0%、24年末3.0%、25年末1.75%)。

 

ドイツ10年債金利は、23年平均2.4%、24年平均2.3%、25年平均2.0%での推移すると予想している(表紙図表2、図表27)。

 

PEPPの償還再投資の段階的削減に伴い、「分断化」防止手段は制約されるが、南欧金利の上昇などは想定しておらず、域内の金利格差(「分断化」)がECBの金融引き締めを阻害する可能性は低いと考えている。

 

なお、24年6月には欧州議会選挙が予定されている。引き続き中道右派(EPP:欧州人民党)や中道左派(S&D:社会民主進歩同盟)を中心とした親EU政党が多数派を占めると見られる。

 

一方、前回19年の選挙で票を伸ばした環境・地域主義政党(Green/EFA:緑の党・欧州自由連合)や中道リベラル派(Renew Europe:欧州刷新)は票を減らす見通しであり、替わってEU懐疑派がどの程度議席を伸ばすのかが注目される。

 

選挙後には新体制の欧州委員会が発足するが、メインシナリオでは現在のフォンデアライエン委員長の下で進められているグリーン化(欧州グリーンディール)やデジタル化といった政策路線が引き続き継続されると想定している。

 

(リスク)成長率は下方、インフレは上下双方にリスク

予想に対するリスクは、引き続き成長率に対しては下振れリスクに傾き、インフレ見通しに対しては上振れと下振れの双方にリスクがあると考える。

 

成長率の下振れリスクとしては、金融引き締めの長期化に伴う金融システムリスクの顕在化や実体経済の想定以上の減速、域外需要の悪化が挙げられる。

 

金融システムリスクについては、ユーロ圏金融機関の健全性は高まっているが、景気減速を受けて不良債権が増加する可能性がある。オーストラリアの不動産大手シグナの経営破綻12はその一例と言える。

 

ユーロ圏金融機関の健全性は高いことから、メインシナリオでは実体経済への影響は限定的と考えているが、ノンバンクなど相対的に規制の緩い金融機関を中心に金融引き締めにより、ストレスが強まり経営が悪化する可能性がある。

 

また、商業用不動産をはじめとした不振業種で経営不振に陥る企業が増加することで、直接的に経済への下押し圧力が強まる可能性がある。

 

域外経済では、米国の金融引き締めの影響で想定以上に経済が悪化する、中国の不動産不況が深刻化し需要が停滞するといったことがリスクになるだろう。

 

インフレについては、上振れリスクとして、これまでと同様、エネルギー需要の高まりとそれに伴う価格高騰、賃金上昇圧力が持続しインフレ率の低下ペースが遅くなるリスクが挙げられる。

 

エネルギー需要の高まりについては、厳冬やLNG輸入の大きいアジアでの需要増加がリスクとなる。ウクライナや中東など地政学的な緊張が高まり、価格が再上昇するリスクもある。

 

また、農作物価格に関しても、地政学的要因、輸出規制、気候要因で価格の上昇圧力が強まる可能性がある。

 

賃金については、24年以降も労働者の賃上げ要求が強い状況が続き、企業でも強気の価格転嫁姿勢が続く場合、景気減速感が強まるなかでも、インフレの低下スピードがごく緩やかとなるリスクがある。

 


12 例えば、Sam Jones, Olaf Storbeck and Laura Onita, “European luxury property group Signa files for administration”, Financial Times, NOVEMBER 30 2023(23年12月14日アクセス)。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=76995?site=nliを参照下さい

 



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※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年12月15日に公開したレポートを転載したものです。

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