インバウンド需要が変える、日本の不動産の姿
一般的に不動産を所有する場合、「実需として暮らす」「安定的なインカムを得るために賃貸する」「投資目的として購入・回転させる」という、3つのパターンがあるが、タワマンについて見ると、近年ではとくに、投資のみならぬ「投機」的な動きが目立っている。とくにその動きが目立つのが外国人所有者たちだ。
都心部人気エリアのタワマンを買う外国人の急増は知られているところだが、おそらくその数の多さは、一般の人々の想像を超えている。都心の人気エリアのタワマンのなかには、マンション組合員の半分以上が外国人というところもある。
そしてまた、コロナ禍が収束した日本には外国人観光客が急増している。
外国人旅行者のなかには、国柄なのか、ファミリーが10人近い団体となってやってくるケースも多い。銀座では、高級ブランド店の前にワゴンが横付けされている光景を目にするが、これはかなりの確率で外国人旅行者のファミリーだ。
このように、大人数でまとまって動く外国人旅行者が増えると、宿泊先が問題になる。
日本人は、大人数の親族一同でホテルの一室に宿泊するといった宿泊の仕方はしてこなかった。そのため、日本のホテルは外国のホテルにくらべてスイートルームの数が非常に少ない。また、あったとしてもワンベッドルームが多く、スリーベッドルームなどは極めて希少だ。コネクティングルームも少ない。これは日本の老舗ホテルも、外資系の高級ホテルも同様の傾向だ。
しかし、エリアによっては例外も出てきた。外国人旅行者の人気が高い北海道のニセコ町には、スリーベッドルームのコンドミニアム、ホテルが増えている。もちろん、外国人の需要に合わせて作られているのである。
ホテルからあふれた外国人の「行き先」
このように、インバウンド需要の高まりにより、ホテル側も外国人旅行者に合わせて形態を変えつつある。
だが、複数のベッドルームを備えた部屋となれば、宿泊料金も高額になる。1泊5万円、10万円といったレベルではなく、数十万円といった価格帯にハネ上がる。
複数ベッドルームのニーズは高まっているものの、東京ではまだ受け皿が追い付かない。そこで目を向けられるのが「民泊」だ。民泊は高級ホテルにくらべればかなりリーズナブルなことから、今後も一層の需要増が見込まれる。
マンションの規約は「民泊禁止」と書かれていることが多いが、外国人所有者への制止には有効とはいいにくい。規約の内容の理解以前に、日本語がよくわからないからだ。
周囲の住民も「あの部屋は怪しい」と思う程度ではどうしようもない。そうなると、外国人所有者が自分の部屋を民泊として貸し、そのうち、大人数でやってきた宿泊者が酒盛りをして大騒ぎしてトラブルに…といった展開になることも十分ありえる。
だが、規約を突きつけて従うように迫ったり、外国在住の買主に規約を翻訳して送りつけたりして制止するのは、実際問題、かなりハードルが高いだろう。
もちろんこれはタワマンに限った例ではなく、一般的な住宅や低層マンションでもいえることだが、立地がよく、外国人に人気の高いエリアのタワマンのほうが、こうしたトラブルの出現頻度は上がる可能性が高い。
外国人の気まぐれに、日本の富裕層が翻弄される
だが、怖いのはさらにその先だ。
すっかり貧しくなってしまった日本人にとって、タワマンはとても手が出ない高額な不動産だ。仮にがんばって購入したとしても、重たいローン返済が生涯のしかかる、人生をかけた買い物となる。
だが、外国人所有者は違う。日本の経済が低迷し続けた30年の間に、先進各国だけでなく、中国や東南アジアは経済力をつけ、日本人にとっての「高額商品」をいとも簡単に手に入れる。
もしそんな外国人所有者の多いタワマンが、2019年の台風19号による武蔵小杉のような災害を被ったとしたらどうだろう。所有者の多くはさっさと見切りをつけて売却するだろう。なにしろ「たいしたことのない価格」で気楽に買った物件だからだ。だが、そうなれば物件価格は暴落する。人生をかけて購入した日本人所有者は目も当てられない。
事実、日本の極めて価値の高いエリアに立つ、ほとんどの日本人が手を出せない高額物件も、外国人にとっては「お買い得」な「お手軽物件」として扱われ、買い漁られている。
国民が大金をつぎ込んで手に入れたタワマンの価値が、外国人所有者の行動次第で大きく損なわれる。外国人所有者の気まぐれに、日本人の富裕層、準富裕層の人生を翻弄される。
そんな現実はすでに到来しているのかもしれない。
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