(※写真はイメージです/PIXTA)

連日多くのメディアで報道されている「政治資金パーティ券問題」。検察は過去の大スキャンダル並みの捜査体制を取り、また岸田首相は、組織的に裏金を作っていたとみられる「安倍派」を相次いで閣僚から外し、交代させる方針を決めました。このようななか、急激な政策転換による日本経済や株価への影響はあるのでしょうか。株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏が解説します。

「巨額の財政赤字」と両建てになっている「潤沢な資産」

当社はかねてから、巨額の財政赤字について財務省や多くのメディア、エコノミストが問題だと指摘している事実こそが針小棒大である、と主張してきた。[図表2]の日本政府の統合バランスシートをご覧いただきたい。

 

[図表2]日本政府統合バランスシート
[図表2]日本政府統合バランスシート

 

日本の政府の借金は郵政を除いて1,514兆円、GDP比258%と世界最大である、と借金の絶対額だけを見て問題視されている。

 

しかしこの借金のかなりの部分は、反対側に資産を持っている。たとえば日本政府は政策運営に必要ない米国国債を120兆円以上持っているが、これは借金と両建てになっている。

 

年金も国民からの預かり金120兆円に対してGPIFの運用益を含めると200兆円規模の資産がある。さらに日本の高速道路は有料で安定的に収入が得られる資産であるが、その建設のための借金なども債務に入っている。

 

政府保有の潤沢な資産を差し引いた純借金は571兆円でGDP比100%弱、世界的に見てもそれほど高い水準とはいえない。また日本財政の国債依存度が31.1%で主要国中最悪という財務省の言い分も誇張である([図表3、4]参照)。

 

借金(=国債発行額)35.6兆円のうち16.7兆円は借金返済分(国債償還分)それを除く18.9兆円が真の借金で新の国債依存度は19.4%、それの対GDP比は3.4%と世界平均並みである。

 

[図表3]2023年度歳出予算(財務省財政関係資料)/[図表4]公債依存度の推移(財務省財政関係資料)
[図表3]2023年度歳出予算(財務省財政関係資料)/[図表4]公債依存度の推移(財務省財政関係資料)

 

そもそも日本は家計と企業部門で膨大な貯蓄余剰があるので、国が借金をして需要を作り、かろうじて循環が保たれている。財政の寄与がなければ需要不足で、もっとひどいデフレになっていたであろう。

 

世界に広がっている世界最悪の日本国政府債務という評価は、「従軍慰安婦や徴用工問題」と同様、日本を不当に貶めるものである。

 

この財務省の緊縮財政バイアスに安倍氏は強い警戒感を持っていた(田村秀男、石橋文登「安倍晋三VS財務省」(育鵬社)2023年に詳しい)。その安倍さんの意志を継承している人々の影響力を絶ちたいと財務省は考えているだろう。

 

なお世界では最近財政出動に肯定的意見が強まっている。米国は、ジャネット・イエレン財務長官が主唱する高圧経済論(MSSE現代サプライサイドエコノミクス)が実践され、主要国に比し躊躇ない大規模の財政支出が、米国経済の好調さを支えている。

 

他方ドイツは連邦憲法裁判所が「財政赤字をGDP比0.35%以下」という憲法規定をタテに、財政支出を制限した。日本もドイツのようにならないような注意が必要である。

 

政府の財政支出余力をより正しく表す政府利払い費の対GDP比(図表6)は、日本は世界最低水準にあり、むしろさらなる財政支出or減税が適切な情勢といえる。

 

[図表5]主要国財政収支/GDP比推移/[図表6]主要国政府利払い費/GDP比推移
[図表5]主要国財政収支/GDP比推移/[図表6]主要国政府利払い費/GDP比推移

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年12月18日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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