「超金融緩和路線」は整然と出口に向かう
次に金融政策面では今回の政変でどのような影響が現れるかだが、基本的に大きな変化はないだろう。
黒田前日銀総裁は、多方面からの批判に耐えて脱デフレの土台を作った。黒田氏は最後の2022年12月にYCCの調整(長期金利の上限を0.25%から0.5%にシフト)を打ち出し、明らかに出口への1歩を踏み出した。
植田新日銀総裁はYCCの調整をさらに進め長期金利が1%を一定程度超えることを容認し、長期金利はほぼ市場に委ねられるようになった。またQE(=バランスシートの膨張)もここ数年750兆円で頭打ちになっている。日本の異次元の金融緩和は事実上半分以上終わっているともいえる状況である。
それにもかかわらず市場が暴走しないのは、いざとなったら日銀が出てくるという睨みが利いているからである。2%のインフレ目標達成への展望も開けてきた。ここからは目標を過度に上回るインフレや極端な円安が進行すれば、整然と引き締めることができる。
昨年12月のYCCの修正時期に海外のヘッジファンドが日本国債を売り、ドル売りの投機を仕掛けたが、それらは持続せず、マーケットはまったく動揺しなかった(図表7)。
異次元の金融緩和は禁じ手であるから出口には混乱が待っていると想定していたリフレ反対派の目論見はまったく外れた。日銀はこれからも問題なく整然と出口に進み、株式市場はそれを評価していくだろう。
年末にかけて急騰する円は日銀への“追い風”
年末にかけて円が急騰した。
①植田総裁の「年末から来年かけて一段とチャレンジングになる」という発言で、12月にも金融政策決定会合で政策変更が行われる、との見方が強まったこと
②12月13日の米国FOMCでインフレ低下、景気減速から、2024年3回の利下げ想定が打ち出されたこと
が理由である。
しかしどちらもこれまでの市場の想定を大きく変更するものではない。ポジション調整の口実とされた面がある。
この円高は慎重に金融緩和解除を進めようとする日銀への追い風になるだろう。ここ数週間に起きた経団連などからの急激な円安に対応するべきとの批判をかわすことができた。むしろ性急な引き締めへの政策転換は望ましくない円高を加速させる恐れがあることが思い知らされた。
このように見てくると今回の政変劇は、当面の経済政策運営には大きな影響は与えないだろう。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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