(※写真はイメージです/PIXTA)

12月8日に発表された11月の米雇用統計。就業可能人口は「月に20万人程度の増加」と堅調が続く米国ですが、一方の日本は個人消費の低迷が続いています。そんななか、日銀は「早めに引き締めに動きたい」様子。いったいなぜなのでしょうか。フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。

短期金利を引き上げるとしても「小幅かつ数回」か

筆者は、日銀は短期金利を引き上げるとしても小幅かつ数回に留めると考えています。

 

2023年3月期の日銀の決算書によれば、保有国債の利回りは0.2%程度です。ですから、日銀がわずかに利上げをして準備預金への付利を引き上げただけでも、資金収支(→中銀という存在にとって特に重要な、保有国債の見合い部分)は「逆ザヤ」に陥ります。

 

加えて、日銀がたとえば2%まで利上げしてしばらく据え置くと、①日銀の資本がマイナスになるほか、②日銀は付利によって市中銀行に2%を支払うために、日本政府+日銀の「連結会計」は事実上、既発国債の約半分(=日銀保有分)を利率2%で発行しているのと同じ状態になります。

 

たとえば、日銀の保有国債の利率が0.2%だとすれば、政府は日銀保有国債に0.2%の利息を支払い、対する日銀は政府から0.2%の利息を受け取ります。この受け払いは「政府+日銀の連結会計にとっては差し引きゼロ」ですから、政府にとっての財政負担は生じません(→すなわち、政府にとっては、中銀保有国債の分、無利息で国債を発行できます)。

 

大幅な利上げは“日銀自身の首を絞める”可能性

ただ、話はここで終わりません。日銀が当座預金に2%の利息を付せば、政府+日銀にとっては「マイナス0.2%プラス0.2%マイナス2%」で、民間部門(=市中銀行)に対し、2%の利払いを行っていることになります。

 

ゼロ金利政策時はゼロ・コストで発行できていた既発国債が、突然2%の利付国債に変わるのと同じです。日銀が多額の長期国債を保有しているために、政府にとっては財政負担が急増します。

 

それは、市中銀行にとってみると資金収支が増える機会であり、財務省にとってみると「大増税のための、これ以上ない舞台」なのかもしれませんが、日銀にとっては、逆ザヤ=資本の減少に陥ることで、(現行日銀法の関係から政府からの出資までは仰がずとも)たとえば、国会やメディアから量的質的金融緩和に対する批判を浴びる事態になりかねず、そうした事態はなんとしても防ぎたいと考えているでしょう。

 

言い換えれば、マイナス金利からは脱するとしても、大幅な利上げは自分自身の首を絞めることになります(→なお筆者は、こうした事態を預金準備率の引き上げで避けられると考えています)。

 

別途、現連立内閣の支持率は低く、与党第1党は次回の総選挙で大敗を喫する可能性が排除できません。

 

そのうえに「引き締めで景気腰折れ、株安」となってしまうと支持率のさらなる悪化は避けられませんから、官邸サイドは日銀に対して「拙速な金融引き締めはしないよう」要請する可能性があるでしょう。

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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