飲食店が入る雑居ビルで放火、約50名が死傷…賃貸する不動産での予期せぬトラブル、「オーナー」の責任範囲は?【弁護士が解説】

飲食店が入る雑居ビルで放火、約50名が死傷…賃貸する不動産での予期せぬトラブル、「オーナー」の責任範囲は?【弁護士が解説】
(写真はイメージです/PIXTA)

賃貸借契約は、賃料を対価として、不動産オーナーが入居者に建物や部屋を使用・収益させる契約です。不動産オーナーは、契約に定められた目的に沿って入居者が建物を使用したり利益を上げたりできるよう、建物を管理すべき義務を負っていると考えられます。では、賃貸ビル内で予期せぬトラブルが発生した場合、どこまで責任を負うべきなのでしょうか? 本記事では、不動産法務に詳しいAuthense法律事務所の森田雅也弁護士が、不動産オーナーの管理義務の範囲について解説します。

放火による火災が発生!賃貸ビル所有者の責任は?

次に、賃貸ビル内において放火による火災が発生し多くの死傷者が出た場合を考えてみましょう。

 

賃貸ビルの所有者は、なんらかの責任を負うのでしょうか。

 

裁判例では、飲食店等が入る雑居ビルで火災が発生し50名近い人が死傷した事件に関して、物的・人的設備、人的体制等の管理不備があったとして、ビル所有会社の代表取締役等に対して、業務上過失致死罪の成立を認めました(東京地裁平成20年7月2日判決)。

 

この雑居ビルは、エレベーターが併設された狭くて急傾斜な内階段以外に避難階段はなく、その階段部分に各店舗がさまざまな物品を置くなどしていました。

 

そして、3階エレベーターホール付近で発生した火災が、階段部分に置かれた大量の物品に燃え広がり、さらにそれらの物品が防火戸の自動閉鎖の妨げとなって、被害が拡大してしまいました。

 

裁判所は、ビルの階段部分から出火または延焼の原因となる物品を撤去し、防火戸が自動閉鎖するよう維持管理する措置を怠っていたことを過失として、ビル所有会社の代表取締役等の責任を認めたのです。

 

なお、消防上の措置については、消防法によって、防火管理の徹底が図られています。

 

消防法第17条の3の3は、建物の「関係者」に対して、消防設備の点検・点検結果の報告を義務付けています。賃貸ビルのオーナーは、「関係者」にあたるとして、設備の点検・点検結果の報告をしなければならない場合がありますので、注意が必要です。

 

賃貸ビルの経営者には、思わぬ管理責任を問われないように、いま一度契約書の見直しとビルの安全体制の確認をおすすめします。

まとめ

賃貸ビルのオーナーは、賃貸借契約に基づき、入居者が契約に定められた目的に沿って使用収益できるように管理すべき義務を負っています。

 

そして、賃貸ビル内で盗難が発生した場合には、原則としてはオーナー側が責任を負うことはないものの、契約内容等に照らし、例外的に責任を負う場合があります。

 

また、賃貸ビル内で火災が発生し、死傷者が出てしまった場合には、刑事上の責任を問われる可能性があります。

 

オーナーは、以上のような責任を負う可能性がありますので、いま一度契約書の内容をチェックしたり、建物内の物的・人的設備に不備はないかなどについてしっかりと確認をする必要があるといえるでしょう。

 

 

森田 雅也

Authense法律事務所 弁護士

 

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