(※写真はイメージです/PIXTA)

先祖代々受け継いだ土地や建物などの資産で、何もしなくても家賃収入を得て楽に暮らしている、と世間からは思われがちな「地主」たち。しかし、実際のところは、遺産相続について家族間で意見が食い違うケースもあります。地主専門の資産防衛コンサルタント業に従事する松本隆宏氏の著書『地主の真実』より、令和時代の地主たちが抱える深刻な問題を、具体的な事例をもとに見ていきましょう。

「自宅に住み続けたい」という思いで養子縁組をしたが…

このとき紘子さんはあることを考えていた。義母亡き後、この家に住み続けられるだろうか、ということだ。

 

結婚以来ずっと住み続けていた家でそのまま暮らしたい。しかし法定相続人は義兄と、紘子さんの子どもたちだ。財産を分ける際に、子どもたちは家の権利を主張できるだろうか。

 

交渉になったら難しいだろう。年齢差もあるし、立場的には伯父と甥、姪だ。

 

「義兄と子どもたちがやり取りするのは、ちょっと大変かなと思いました。でも私は嫁なので、立場的には権利がないし、この話には入れない」

 

紘子さんは、慣れ親しんだ場所に住み続けたいという気持ちもあり、養子縁組を受けることにしたのだ。

 

紘子さんが養女になったことで、義母の法定相続人に紘子さんが加わった。相続人は①義兄3分の1、②夫の子どもたち3分の1(2人が6分の1ずつ)、③紘子さん3分の1となった。

 

義兄に伝えなければならないが、紘子さんからは言いにくい。義母は「息子には私から話をしておくから、紘子さんからは何も言わなくていいよ」と言ってくれた。紘子さんは義母から話してくれるなら安心だ、と思っていた。

 

いずれ来る相続問題に備え、「相続税セミナー」に参加

私が紘子さんと最初にお会いしたのは、その頃だった。私は紘子さんの地元の住宅会社が主催する相続税セミナーに、講師の1人として呼ばれていた。

 

「そのとき初めて、そういうセミナーに参加したんです」(紘子さん)

 

まだ義母はご存命だったが、いずれ来る相続を考えると、いろいろ不安になっていた。そんなところにセミナーの知らせをもらったのだという。

 

講演の休憩時間に、私は紘子さんに声をかけた。セミナーに参加される方のほとんどが、ご夫妻や親子で来ている方ばかりの中、1人で参加されていた紘子さんを見て「何かお話したそうだな」と感じたのだ。

 

その後、紘子さんとのやり取りは細く続いていた。本格的にご相談をいただいたのは、紘子さんの義母が亡くなって、その相続が落ち着いてからだった。

 

義母の死後、とんでもない事実が判明

病気を抱えていたが、長患いせずに義母は82歳で亡くなった。

 

「入院していましたが、家に帰りたいというので、最期は家で看取りました。大好きな家で好きなように暮らしてもらって、数か月、私としては精いっぱいやらせていただきました」

 

しかし、義母の死後にとんでもないことがわかった。義母は義兄に紘子さんが養女になった話をしていなかったのだ。

 

「俺はおふくろから何も聞いてないよ、知らない。そんなのとんでもないよ!」当然ながら義兄は突っぱねた。

 

「逆の立場なら、私もそう思ったかもしれないと思います」義母から頼まれた養子縁組だったことを説明したが、義兄の立場では納得がいくはずもない。

 

「私がもう少しきちんとお母さんに確認すればよかった」と紘子さんは後悔している。

 

「やはり嫁で入った人間ですから、自己主張していいのか、いけないのか。でも、自分と自分の子どもは守らなきゃいけないし、生活もありましたから。それに、お義母さんとは最後まで一緒に生活させてもらって、看取ったという自負が自分の中にはありました」

 

義母の相続財産は、実家の土地と預貯金が主なものだった。紘子さんは、なるべく義兄の要望に従って遺産を分割した。結局、紘子さんは住んでいた自宅を相続した。角地の150坪ほどの一軒家である。

 

 

松本 隆宏

ライフマネジメント株式会社

代表取締役

 

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※本連載は松本 隆宏氏による著書『地主の真実』(マネジメント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

地主の真実

地主の真実

松本 隆宏

マネジメント社

世間一般にイメージと違う地主の真の姿を明らかにし、どのような問題をかかえ、どのように解決し資産防衛してきたかを著者=「地主の参謀」がレポートした。

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