キックバックで2,800万円を受けとったF建材代表の供述
前述のように、広域的で複数の会社が絡んだスキームでは、F建材だけを単独調査してもトカゲの尻尾のように切り離され、M資材で調査が終了してしまう。しかも、税務署には管轄区域の壁があるため、自分たちにはM資材やU建設を調査する権限がない。
必要悪の近隣対策費を裏ガネで支払っても、会社の経費にはならない。しかし、使っているお金なのでマルサが追う『私腹を肥やした脱税』とも違う。
マルサに通報しても動いてくれないが、リョウチョウ※なら裏ガネを捻出するための架空外注費を否認して追徴課税できる。上申するための証拠固めでF建材に踏み込んだ。
※国税局の調査部門のひとつである「資料調査課」の通称。マルサのような強制調査権限はない。任意調査で大口の不正が見込まれる事案や税務署では対応が難しい事案を調査する部隊。
高見澤上席「F建材の主な売上先を教えてください」
F建材代表者「M資材という都内の会社です」
高見澤上席「8月5日、午後2時30分に行った会社のことですね。ここ数日、あなたの自宅を張り込んでいました。正直に話してください。すべてを知っていると伝えたはずです」
F建材代表者「すべて、ですか……」
髙見澤上席が「振込まれた資金をM資材にバックしていることも知っています」と伝えると、のらりくらりと質問をかわしていたF建材の代表者は、観念したように「そこまで知っているのですね」と言った。
代表者の供述は、具体的で詳細だった。口座に振込まれた全額をM資材に届けると、振込額の7%の手数料を現金でもらえる。口座には7年間で約4億円の入金がある。F建材は法人登記がないため代表者個人の無申告2,800万円が調査額になるが、F建材だけで調査を終わらせてはならない。
M資材にバックしたお金はすべてが不正資金であり、さらに川上のU建設にも責任を取ってもらわなければならない。しかし、いかにF建材の代表者を追及しても、最下流の「かぶり屋」が上流の取引を知るはずもなく、全貌の解明には上流の会社も同時に調査する必要があった。